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迷えるアンデッド  作者: ヨルカ
プロローグ
1/1

転生、そして走る

タイトルの変更と本文の加筆修正しました。

読んでくれてありがとう!

 気が付いたらここにいた。

 思い出したら混乱した。

 生きていることに。

 動けることに。

 混乱して両手で目を抑えつつ、ヘッドバンギングする。


「ぎゃーー!? 目がぁー!? 目が取れてるぅー!?」


 落ち着こうと思って手を離すと、左の手のひらに目玉が載っていたのだ。


「うわぁー!? 落としちゃったぁー!? っていうか踏んじゃったぁー!?」


 パニックのあまり、目玉が手のひらから転げ落ち、踏み潰してしまった。

 踏み潰して気が付いたが、裸足だ。

 ―――感触が、した。

 鳥肌のような感覚が全身に広がっているが、それでもゆっくりと足を上げる。ガムを踏んで足を上げるような、地面から引っ張られるような、くっつくかのような気持ち悪い感触が足の裏から伝わってくる。


「潰れてる……あれ? でも目は見えてるぞ?」


 潰れてしまった元眼球を見ているのだが、距離感に問題はなく、きちんと両目で見ている感覚がある。片目ずつ閉じて確認するも、問題がなく見える。

 そうなると、気になってしまう。

 なぜ、視覚が残っているのか。

 なくなったのに見える、本来目があった場所には何があるのか、と。


 ゆっくりと、右手の中指が左目の(まぶた)に触れる。さらにゆっくりと、指を下に下げる。徐々に、徐々に下げ、頬の骨に触れた。


 もう一度、仕切りなおして瞼からゆっくりと指を下ろす。

 少し震えていたせいだろうか。自分の目を潰すような格好になってしまったが、瞼の、本来目があった場所を押すように指が入ってしまった。


「ん?」


 背筋に、スっと寒気が走った。

 感触が、ない。

 指からも眼球があった場所からも、触れたり触れられたりの感触が、ない。


 前世では、ゲームはしていなかった。ホラー映画も見なかった。だが、そんな俺でもわかる。

 自分は今―――ゾンビだと。


「おりゃー! ゾンビ共、くたばれ!! 【ホーリーライト】」


 唐突に声が聞こえた瞬間、綺麗な白い光が声のした方向を照らした。

 白く綺麗な光のはずなのだが、体が拒絶反応を起こす。まるで真夏の太陽の直火焼きを浴びるような心地だ。

 そして、ここが墓地であることを思い出す。

 さらに、先ほどの言葉を。


「次だ次! 【ホーリーライト】」


 ゾンビという言葉と、ホーリーライトという単語と、この白い光。

 これらから分かることは。


 気づいたら本能に任せて駆けていた。

 光とは正反対の方向を走り、そこから90度右に曲がって、森に向かって更に走った。気づかないうちに周りにいた他のゾンビたちは逃げることもせず、ただ生者に向かって歩いている。


 遠く背後で白い光が辺りに影を作る。自分は既に森の中で、走り続けていた。途中川があったが必死で泳ぐ。とにかくあの光から遠ざかりたかった。

 息は切れないし、生前よりも動きがいい。低木の枝や根にぶつかっても、気にせずに走る。裸足で石を踏んでも痛みがなく、走り続けることができる。

 恐怖すらもかき消すように、俺は走っていた―――


◇◇◇


 かなり離れたので、隠れて休めそうな場所を探す。

 しばらくして、小さな洞窟を見つけた。あの声の主が、一体ゾンビを取り逃がしていたことに気づくとは思えないし、ましてやここまで追ってこれるとも思わないが、念のために入口に土を盛っていく。

 自分も入り、入口を完全に埋めた。


 しばらく黙って震える。脳裏にあの光がまだ焼き付いている。まだここに来て数時間だが、なぜかあの光には、本能的に強い恐怖を感じた。

 ―――ただひたすらにおぞましい。光に恐怖を覚えたことはないが、もうあの光とあの声の主には近づきたくない。


「アアアァァァ!!!」


 叫ぶ。そうすることで何か良くなるとは思えないが、何もしないよりましだ。


「ふぅ。にしても、夜なのによく見えるのは便利だな」


 一息ついて自身の体を改めて確認する。さっきは逃げることに意識を切り替え、自身がゾンビであることの確認を中断したのだ。

 それを再開しようと体を眺め―――


「骨!?」


 自分の手のひらに肉がなく、骨だけが残っていてわずかな肉片が骨に張り付いている。慌てて顔に手をやるも、肉がない。足にも、胴体にも。


 そして思い出す。

 走っていたとき、体が徐々に軽くなっていたことに。

 枝などにぶつかるたびに、軽くなっていたことに。


「そげ落ちたー!? っていうかスケルトンってゾンビの肉がなくなった生き物だったのか!?」


 変化した姿にショックが大きいが、ちょっとずれたところに驚きを感じる。


「ちょっと、脳内整理が必要だわ」


 墓地で全てを思い出したのだが、本来自分がいた場所はこの世界じゃない。魔法なんてない、科学が発展した地球だ。死んだのは確か記念日だった。東京の自宅に帰ってすぐ、二股と勘違いした彼女が包丁で俺を刺してきたのだ。


 君のためにプレゼントを選んでもらったのに。それも一緒に選んでたの、男なのに……。


 おっと、思考がそれた。

 刺されたあと、起きたら墓地で、それも立った状態だったと。

 で、目が取れて、謎の声が聞こえてゾンビ狩りが始まり逃げ切ったと。

 さらに、気が付いたらゾンビからスケルトンに進化?していたと。


「ファンタジー世界にようこそってやつか? でもなんでゾンビ? 地球で死んだから? でもゾンビスタートはマズイでしょ?」

「……」

「これからどうするかだなぁ。とりあえず何ができるかを確認しないと何も出来ずに昇天させられそうだな」


 白骨の手をグーパーしながら、感触を確かめていく。きちんと感触があることに感動しつつ、指の関節には隙間があり、物が挟まっても痛みがないことなどを確認して眠りについた。

 気疲れもあったからだろう、スムーズに眠りにつくことができた。


 こうして俺は、この世界で不死族(アンデッド)として生き抜くことにした。

 死ににくいのだから、地球でできなかったことをしていきたい。

 こうして生活? いや、生きていないから不死活? が始まった。

現状進化


ゾンビ

➥スケルトン

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