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両者ともに最初から激しいものとなった。
先に動いたのはギルド長で、右腕が見えた時にはすでに隣に左腕が後を追うように繰り出される。
止まらぬ拳の打ち出しにレーべは盾を使って防ぐ一方であったが僅かなタイミングのズレを捉えることに成功した。盾と戦棍の根本でギルド長の左拳を挟みこみ、自身は身体を捻りながら首元めがけ踵落としを狙いにいく。
空いた右拳も戦棍で地面へと受け流され、勢い余り重心を右前へと崩される。
一瞬のよろめきは大技を当てるには十分であった。
レーベの上げた足は迷うこと無く最適解の進路で着実に首根っこを捉え、決して外れることはないとカインを確信させた。
「甘い」
ギルド長はレーべだけに聞こえる声で少しニヤつき、降りてきた踵の一撃を受け止めた。
鈍い音が鳴り響き、女性の新米冒険者が両手で目を塞いだ。
カインも痛そうに半目だけ閉じ、受け止めたギルド長を心配そうに見た。
しかし、ギルド長は全く傷を受けていないのか倒れる素振りも見せず、その場で動かない。
レーベの方も足を下ろそうとはせず、追撃に入ることもしない。
何が起きているのかとカインは一撃の現場を注視した。
レーベの繰り出した大技は確かにギルド長の頸椎を捉えて――いなかった。
正確には寸前のところで届いていない。
いかにして防いだのか。
ギルド長が踵を止めた術は後頭部を後ろへ反ることで背中上部との間の隙間をなくしたことにあった。
人間の足の大きさならば挟みこめないだろうが、レーベの大きな獣人の足には有効である。
だとしても、両手持ちの戦棍と巨大なタワーシルドを片手ずつ持てる力を備えた者の一撃を抑えこむのはギルド長の実力あってのことであった。
「では、今度はこちらが」
未だ挟まれたままの左腕を上下に激しく揺すり、隙間より解放させると両手で首元付近で捕まったままのレーベの足首を掴んだ。
そして、上半身を勢いよく左方向へ反り返すとレーヴの体が宙に浮かんだ。
突然の事態に戦棍を落としてしまい、慌てふためくレーヴ。
持ち上げた身体を右側へと投げるため左から右方向へと方向転換し、勢いが一番のった所で掴んだ両手を離した。
レーベの身体が投げ出され地面を削りながら砂埃を起こして進み、やがて場内の壁に頭から激突した。
カイン達は口をあけてその光景を見つめいた。
やがて砂埃が落ち着き始めた頃、レーヴの姿が明瞭となる。
地面に突っ伏したまま微動だにせず、完全に伸びてしまっている。
「カイン、誰か呼んできてくれ」
カインは頷き、助けを呼ぶべく走りだした。