8-4
男たちがいなくなったテーブルにはなぜかバルサックが腰掛けた。
コップを掲げ、例の給仕が静かに水を注いでいく。
顔を何度も見ながら――しかし、頬を染めながら注ぎ終えると静かにお辞儀をして逃げるように去っていった。
カインはここでの食事はやめようとテーブルから離れようとしたが、コップに水を注いでもらっていないのに勝手に料理が運ばれ、目の前に二人分くらいはあるだろうかという量が置かれてしまった。
給仕達にいいたことがあったが、そそくさと離れていき、食事をしていた者、する者たちもみな早食いとなり、終わればすぐさま食堂から逃げていく。
バルサックの前にも料理が運ばれると、静かに音をあまり立てずに黙々と食べ始めた。
少食なのか一人前の半分の量のみしか皿にはのっておらず、少々驚いた。
「あの、バルサックさん」
相手が気難しい相手なのは分かっているが、助けてもらった礼ぐらいは言わなければとカインは重々しく口を開いた。
しかし、カインを見ること無くバルサックは手の動きを止めずに口へと朝食を運び続ける。
「さっきはありがとうございました。おかげで怪我をしなくて済みました」
それだけ伝え、カインも朝食を食べ始めた。
ギルドに向かうため、支部の長い廊下を渡っているとリッツと出くわした。
どうやらバルサックの一件が耳に入ったらしく、気になり食堂へと駆けつけたが既に去った後だったらしい。ついでにと、自身も朝食を食べることにし、その帰りにカインと会った事を教えてくれた。
「しかし、バルサックも隅に置けないな」
「何がですか?」
「助けた給仕。、どうやら街の名士の娘でな。バルサックの姿に惚れたらしい」
「はーそうなんですか」
「なんだお前その態度は」
一応自分も最初に割って入ったんだが、何もないのかと少し残念がった。
ギルドへ向かうと伝え、支部の外で二人は別れた。
今日は寄り道せずに行こう、カインは足を踏みしめながら決意した。
大通りを抜け、裏路地へと入る。
自ら危険を選ばずとも良いのだが、人混みは苦手だ。
遠くから見る分にはいいが、いざ自分が中へと混ざると気を使って疲れてしまう。
建物同士の合間にわずかにできた隙間から光が注ぎ込む裏路地を突き進み、暫くして再び大通りへと出た。すると目の前にギルドの建物が表れ、今しがた現れたカインを奇妙な目で見る街の人々と目があうもすぐに知らん顔で各々は目的地へと向かう。