7-12
ギルドを出ると既に夜が訪れていた。
街の至る所に小さな灯りをともす魔術師の姿が見受けられ、一部の旅人だろうか珍しそうに周りに集まっている。カインも気になり、野次馬に加わる。
魔術師は慣れているのだろう、周りの民衆に緊張することなく袖下より杖を出すと設置されている五メートルくらいの街灯の蝋燭台に見立てて造られた場所へと静かに、しかし早口で何かを唱えた。
杖先より光の筋が伸びていく。
周りを包み込むような優しい光に一同は目を奪われ、ある者は口をあけて見入っている。
光の筋は勢いを止めることなくゆっくりとだが着実に蝋燭台へと向かい、そこへ達すると丸くなって次第に球体へと変化していく。そして一定の大きさ、大人の顔ぐらいだろうかそのぐらいになると、魔術師は杖より伸びていた光の魔法を止める。
トカゲの尾のように最後尾の部分が左右に揺れながら、蝋燭台で待つ球体に吸い込まれると、球体は一際輝いてみせた。
暖かな光も眩いもの、街灯下は昼間のように明るく、地面に転がる小石さえも何色か分かるぐらいに明るい。
周りの魔術師たちも同様に次々と課せられた仕事をこなしていく姿が幻想的であった。
いつもなら迷子になるカインだが、支部への道は頭に自然と入っていたので真っ直ぐ帰ることができた。
支部の入り口左右に篝火が設置してあり、火の揺らめきがカインを出迎える。
警備は一人もいない様子で、ドアをノックした。
「戻りました」
ドアに向かって強く声を放つと、暫くしてゆっくりと開いた。
開けてくれたのはスネアの召使いの一人であった。
細目で長身、体つきは華奢である彼女はカインだと分かると、すぐに中にいれてくれた。
「カイン。旦那様は既に食事を終えられ、今は居間におられます」
「そうなんですか。何かおっしゃってましたか?」
「いいえ。ただ、遅くなるなら事前に言うべきでしたね。旦那様は気にされませんが、私達のように身の回りや人員の事を把握している者は少々気が休まりません」
少し苛立ちを含めた声色だった。
ギルドにまっすぐ向かえば心配させることもなかったな、とカインは反省した。
「それで、ギルドはいかがでしたか?」
「あ、はい。明日また来るように言われました」
「そうですか。あそこのギルド長は旦那様とのお知り合いみたいですよ」
「知ってます。御本人が言ってましたから」
会話の途中であったが、召使いが足を止めた。通り過ぎようとしていた扉に向き直り、軽くノックをする。
返事はなかったが、召使いは気にせずドアをあけた。
すると、ベッドが左隅に置かれただけの部屋が現れる。
「カイン、今日はここを使いなさい。明日には貴方ように宿を手配しますので」
「良いんですか?」
一人用の部屋というのは生まれて初めての事であった。
常に兄弟か親と部屋を共にしていたカインにとってはこの上ない贅沢である。
「野宿されては私が旦那様に叱られてしまいますし、入りたての新参にそのような振る舞いは致しません。それに貴方は世のことを知らない節が見受けられます」
召使いの鋭い目がカインを釘をさした。
心当たりが非常にある言葉に目線を外す。
「食事はどうしますか?」
「お腹いっぱいなので大丈夫です」
これ以上会話を続けたら、耳の痛い事ばかり言われるなとカインは逃げるように遠慮した。