7-10
「食べてみろ」
手渡されたものを恐る恐る受けとる。
大きく開けた口は口角まで裂き、白く淀みのある瞳と目があった。上部に薄く生えた羽のようなものは端々を炭化させており、丹念に焼かれた事を物語る。
下部に目をやれば見事に割かれた腹から滴る油の光沢が食欲をそそる。
一向に食べずに観察を続けるカインをよそにリッツは魚の腹部にかじりついた。
引きちぎるように小骨ごと口の中にいれ、咀嚼したのちに骨のみを吐き出した。
「どうした、焼きたてだから美味いぞ」
「は、はい」
どうにでもなれ、と目を瞑り上部からかじりついた。
そのままゆっくりとゴムでも引きちぎりるかのように身から口を離し、非常にゆっくりと咀嚼をする。
口の中で未知の旨味と塩の風味が広がり、気づけば飲み込んでいた。
それからのカインは一心不乱に食べ始めた。
あまりのがっつきように周りの人間が通り過ぎるたびにカインに目線を送るが、それを気にすることなく只管たべつづけた。
口の周りに焼けた鱗をつけ、串には頭と長い背骨しか残っておらず見事な完食であった。
「もっと食べたいです」
目を輝かせリッツにお願いすると、自分で買えといって屋台を指さした。
魚は次々と焼かれ、気のせいか行列が出来始めている。
無くなる前に並ばなくては。カインは本来の目的を忘れて最後尾についた。
その後もしばし別の屋台で魚料理を堪能した後、ベンチに腰掛け船の出入りを眺めながら港を堪能していた。ふと、座り直そうと立ち上がると胸の内側から何かが落ちてしまい、咄嗟に拾い上げた。
それを見て、カインは冷や汗が一気に沸く。
スネアに頼まれていたギルドへの使いを完全に失念していた。
「ギ、ギルドの場所ってわかりますか?」
震える声でリッツに聞く。
「ああ、あそこに見える建物があるだろ。あれがこの街のギルドだ」
指さす先にひときわ目立つ建物が見える。
ルガの街にあったものをもう一回り大きくさせたその建物を目に焼き付けると、そこめがけて走り始めた。
「急げ、急げ」
胸の内の声を漏らしながら、ぶつからないよう躱しながら進む。
直感でわかる裏路地から続くであろう場所を見つけ、迫る夕刻がつくる長く伸びた影を追い求めるかのように風のように疾走していき、再び表道へと出た。
そこを左へと進んだ先にギルドが見える。
港からギルドまでには住宅街と市があり、この時間だと夕食を求めて人々がごった返しになっているため、あのまま表を進めば人混みに捕まっていただろう。
あがった息を落ち着かせ、何事もなかったかのようにギルドの扉をゆっくりとあけた。