7-9
カインはボドカの街を走っていた。
ルガよりも大きなこの街はなぜか濃い塩に似た香りが鼻に入ってくる。
地面に塩でも撒く風習でもあるのだろうかと突き当りを右へ折れれば、遠くで街の外から見えていた海の一部が見えた。
少し寄り道してもいいだろう、とそちらのほうへ向かうことにした。
海が近づくに連れ、人々の声が増え始める。
行き交う人々の数も増え、みな持参した布袋に何か縦長のものを詰めて持ち歩いていた。
その袋が横を通過するたびに塩の香りが強くなるので、塩と海は関係があるのではないかと考え始めた。
「よっ、カイン」
聞いたことのある声に足を止め、辺りを探すと急に後ろからリッツに背を叩かれた。
「早速買い食いしにきたか」
ニヤついた表情で言うのでカインはどういう意味か尋ねた。
「しらばっくれんなよ。お前言ってただろ。街に着いたら美味しいものを食べるって」
「言ってましたけど、ここに美味しいものがあるんですか?」
まさか塩のことを言っているのだろうか。
「本当に何もしらないみたいだな。ここには海がある。海があるってことは魚がとれる」
魚と聞いて聞き覚えのある単語にカインは首を傾げた。どこで聞いた言葉だったか。
「ちょうど戻ってきた船があるって聞いて俺も来たわけだ。お前も来るだろ?」
「船ってあの船ですか」
聞いたことがあるその名前は、水の上を進むために必要不可欠なもので旅商に教わったことがある。
人間は水の上を歩けない代わりにその乗り物を使うという。
「それ以外にどんな船があるんだ。いいからいこうぜ」
魚とはなにか。疑問を明確にできないままリッツはカインの手を握ると、走り出した。
途中、数人とぶつかりそうながら寸前で躱しながらひかれるままに進むと、少し開けた場所にでた。
建物を背に幾つもの屋台が横一列に並び、活気のあふれる声があちこちであがる。
広場の奥は船が岸壁に接岸しており、係留するために打ち込まれた丸太に縄を幾つも括り付けている。
小型の船だとタラップが掛けられており、次々と梱包された木箱を荷降ろしする作業が随所で見受けられる。
「ひとまずここでいいだろ」
カインが港の景色に見とれている横でリッツは近場の屋台から何かを購入していた。
なにやら値段のことで交渉している様子で少し目をやると、木の棒に貫かれたカインの腕くらいのモンスターが焼かれた姿が目にとまった。