7-8
「あのスネアさん」
カインが重たい口を開いた。
「僕、もっと強くなりたいです」
自分でも驚くほどの素直な言葉が吐き出された。
カインが今まで何度も押し込めていた最も欲していた気持ちが放たれた。
「強くなりたいのか?」
カインはうなずいた。
冒険者としてという意味ではなく、人として。
「だいぶ曖昧な欲望だな。しかし、なぜワシに?」
「それは……」
それ以上は今の自分では明確に答えることはできない。
スネアの成した業績を見て、今まで一番親切にしてくれた人だから、など言おうとしたが、本心からの言葉ではない。上手く伝えることのできない大きな存在の相手にカインは四苦八苦する。
「ふむ。まだ出会って日が浅いのは承知だが、たしかに今のお前は弱い」
「その通りです」
「この先、テティス商会の護衛として務まるかどうか、そこを危惧しておるのじゃな?」
「はい」
スネアはカインがみなまで言わずとも全てを理解っていたのか、一度も的をはずさぬ言葉をあげた。
「そういう事ならば、ワシに良い知り合いがおる。この街に滞在する間、そいつの元で鍛えてもらうといい」
スネアは召使いの一人を呼びつけ、耳元で何かを伝えると召使いはすぐにお辞儀をしてどこかへとさっていった。しばし待つと丸めた羊皮紙を手にした先程の召使いが戻ってきた。
それをスネアに手渡す。
早い目線の動きで書かれている内容を確認し、カインに手渡す。
「こいつを街のギルドへ持っていくと良い。ワシの幼馴染がおるから、そいつに渡せば大丈夫だ」
カインは黙って頷くと、案内途中だというのに一目散に走っていった。
「旦那様、よろしいのですか?」
「何がだ?」
一人取り残され静かに笑うスネアを召使いが気遣う。
去っていくカインに向けられていた目線は同情であった。