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全ての荷物が積み下ろされ、スネアの案内でボドガ支部の中へと入った。
従業員やセレンがいた場所はどうも支部の裏手だったようで、せっかくだということで裏手からの紹介となった。元々は貴族の別荘として使われていたもので、その貴族が没落した後にスネアが落札をして支部として使いはじめたという。
裏手に入ると、すぐに巨大な倉庫が現れた。
丁寧に整理されており、見た目ですぐ分かるように区分けされている。
商品の種類を明確にするべく堺とされる部分には目印が建てられており、先端には染まった布がついている。
カインが尋ねると、倉庫番の人間ならばどの色が何をさしているのかすぐに分かるという。
例えば赤ならば一番目立つ色、つまりは必需品となっており、それは生活雑貨にあたるという。
青なら武具であり、紫ならば嗜好品だそうだ。そして、黒は素材といわれる。
解体されたあのモンスターも積まれた角い木箱の中に詰められているのだろう。
スネアはよく喋りながら進み、いよいよ表へと辿り着いた。
途中で中庭や中庭に建つ離れ家を紹介してくれたが、カインの目を惹くことはなくあまり興味が沸かなかった。
「そしてここが正面入口だ」
そういうと、召使いの一人が率先して弧線の美しい取手の観音開きのドアをあける。
長い廊下がどこまでも続き、左右には余計なものはなく想像していたものよりも質素で清貧な道となっている。しかし灯りが途切れ少しでも影を落とす場所はなく、夜でも昼のように明るさを保つ程の照明が置かれている。
スネアが遠慮なく足を踏み入れるもカインはなかなか一歩が出せない。
自分が歩いて良い場所ではない気がする。
「入らぬのかカイン?まだまだ案内したい場所はたくさんある」
触ることのできない壁が目の前に存在するかのようにカインの足は進もうとしない。
見えない線によって引かれた権力や身分の違い、そして歩んだ人生の差が行く手を阻むのだ。
怖気づいてしまっている。カインは時折感じていた鈍い感覚を明確に自覚する時が来たのだと確信した。
ごめんなさい、疲れてしまったみたいです、といえればすぐに楽にこの場から降りることができる。
隣にいるはずの人形は解散してから姿が見えなくなり、助け舟を出してくれるものはいない。
記憶に霞が出てきて忘れかけている少女の言葉もカインの耳に届かなくなっていた。