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昨日分と今日分で二話、投稿します。
スネアの言った通りテティス商会の商隊は他の馬車をよそにすんなりと行列を横に堂々と進んだ。
誰しもが羨ましそうに、または恨めしそうな瞳でカイン達を目線で追う。
なんだかこそばゆい気持ちとなって申し訳なさとちょっとした優越感が入り交じる複雑な感情が胸の内で広がる。
しかし、商隊員達は誰しもカインのように複雑な面持ちとは違い、淡々としていた。
従業員達はもちろん、馬車のそばを歩く護衛達誰一人として群衆に動じることなく、我が家へ帰る気持ちで特別な思いなどなく普段どおりの装いだった。
町へ入ると町民たちが足を止めて、スネアに手を振っていた。
強面のバルサックにさえ、女性たちからは黄色い声援があがる。
新入りのカインには誰も気にはかけなかったが、それでもテティス商会の一員であると実感できた。
やがて商隊は街の中で人通りの少ない場所へと辿り着いた。
しかし周囲の建物は3階建て以上のものが当たり前で、今しがた横を通り過ぎた紳士の服装は田舎育ちのカインにも品性というものを感じさせざるを得ないほどに直感として伝わった。
「カイン。ここで一度解散となる」
「はい」
「お前はまだテティス商会の支部の場所を伝えていない。そこで、これからワシらと一緒にそこへ向かうぞ」
「りょ、りょうかいしました」
六号車までの帆馬車にのる従業員と数多の護衛がそこで散り散りとなった。
街なかなので護衛は大勢必要ない。
どこへいったのかスネアの召使いに聞くと、おそらくは酒場か宿屋だと答えた。
そうしてゆっくりと商隊は練り歩くように、街道を進んで居た時の半分以上の速度を落として目的地へむかう。
道中、スネアに挨拶をする人たちが度々現れるので、その都度停止をし、立ち話が終わるの待つ。
内容は聞こえてこないのでわからないが、スネアの服装に近い事から相手も何らかの商人なのだろうと察した。
数十人との会話の後、陽が沈みかけようかというところで、馬車は止まった。
うたた寝をし始めていたカインはそれに気づかず、石壁に鼻をぶつけてしまい、そこでようやく目がさめた。
「さあ、着いたぞ」
スネアが御者台から飛び降り、いの一番でドアを叩いた。
「商隊交易から戻ったぞ。荷物を下ろす、手伝え」
スネアが自信満々気にいうと、大きなドアがゆっくりと開き中から恰幅の良い女性が現れた。
額が大きく出てしまうほど髪を後ろにし、三つ編みに束ねた一本束の髪は腰まで届いている。
スネアはその女性を見た瞬間に思わず抱きしめた。
「帰ったぞ我が娘!」
カインはそこでようやくスネアの娘さんだと納得した。
よくみれば眉毛の太さと位置がそっくりで恰幅の良さはきっと父親譲りなのだろう。
スネアの娘は黙って抱きつく父親を押しのけると、後ろに待機していた従業員に顎を帆馬車に向けると、それが合図なのか一斉に従業員たちが動きはじめた。
慣れた手付きで次々と荷車などを奥の部屋から押して持ってきては、次々と帆馬車に積まれた荷物を降ろしていく。
一列に長くできた列の先には一人の男が羊皮紙になにやら記入をして、その男が頷くと荷車の男たちは一人ずつ支部の中へと入っていく。
規律のとれた寸分の狂いない動きにカインは圧倒された。
「その子は?」
父親と話す傍らでカインを見つけた娘がカインを指さした。
「カインという。交易の帰りに拾った新人だ」
「カイン……。そう」
娘はカインの前に立った。
一回り背の高い女性がカインに迫るように覗き込むので恐縮してしまう。
相手はテティス商会代表の娘であるゆえ、下手なことはできない。
「私はセレン」
カインは差し出された手に無意識に手を差し伸ばした。
しかし、寸前で叩かれてしまう。
突然の無礼に酷く驚くが、セレンは無表情となってそのまま支部の中へと入っていった。
「すまんな、カイン。悪い子じゃないんだが、あの子は相手を見極める癖があって」
スネアは代わりに謝罪を口にしたが、カインには理解できぬ相手に口を閉ざした。