7-3
野営道具を撤収した後、すぐにスネアが出発の号令を出した。
ゆっくりとスネアが乗る一号車の車輪が動きはじめ、その動きを模範するように後続の商隊も進み始める。
カインは例によってスネアの傍を人形と共に進んでいる。
獲物を腰にぶら下げ、奥まで入り組んだ森を警戒する。
モンスターや野盗が襲ってくれば応戦しなければならない。
しかし、人はまだ一度も斬ったことがないと考え、果たして自分に斬れるのか。
「カイン、疲れてないか?」
御者台に座り、手綱をもつスネアが気遣う。
隣にワイン瓶を置き、時折、忘れていたかのように飲みながら頬を紅潮させる姿は故郷のおじさんを思い出す。
「大丈夫です」
「疲れたらすぐに言っていいぞ。まだ二日目だからな」
カインは頷いて一層、警戒に務める。
そのせいか足取りは遅くなり、一号車から離れてしまい二号車の護衛に鼻で笑われる。
慌てて持ち場に戻り、今度は車輪の音を聞きながら傍にいることを確認していると、奥で光が揺れた。
鳥が枝から飛び立ったのかとしばし目を凝らすと人が見える。
額から上を布で隠し、こちらを睨んでいる。
手には弓を握りしめており、それも一人や二人ではなく、分かる範囲では六人はいる。
カインは息を飲み、周りの護衛達の動きにあわせて行動しようとするも誰も彼らの存在には気づいていない。
あのバルサックでさえ、中央の三号車を操る御者と地図を見ながらなにやら談笑している。
誰か気づいてくれ、カインは慌てた素振りで首を頻繁に動かしながら詰まる思いで助けを求めた。
「どうしたカイン」
スネアがカインの異変に気づいてくれた。
「あ、あの旦那様」
「ははは。旦那さまじゃなくてスネアさんでいいぞ。バルサックのやつめ、余計なことを教えたか」
口を大きく開けて笑う姿につられる余裕はない。
早く伝えなくては。
カインは失礼承知で、進む一号車に飛び乗った。
御者台をよじ登り、見えた危ない連中への警戒を怠らず、スネアを庇うような姿勢をとる。
「様子がおかしいぞ。何が見えた」
スネアもカインの異常な行動に察してくれたのか、笑い顔をやめ真摯なものへと変わる。
「森の奥に弓を持った6人組がいます。こちらを狙っているようです」