7-1
新章を始めます。
ここからカインはテティス商会の一員として世界をまわり始めます。
枝になる無数の新緑から朝日がチラチラとカインの額を照らした。
仄かな暖かみで目は覚め、髪をかきながら寝ぼけた頭のまま体をおこした。
手の腹に柔らかい感触があり、探ると落ち葉がクッション代わりとなってカインの体を優しく支えていてくれた。
隣には人形が立ち尽くしており、カインの目覚めに合わせて顔を向けてきた。
「あれ、リッツさんは?」
まだ起きていない声で目をこすりながら辺りを見渡す。
確か昨晩は獲物を川に浸けて、そこでちょっとした話をしていたはずなのだが。
周りは木々で囲まれ、隙間を埋めるように茂みができている。
近くの樹木を手すり代わりにしてゆっくりと立ち上がり、奥を見渡す。
右側奥に白い布が見え、帆馬車だと分かった。
野営地からそれほど離れていないが、なぜここで寝ていたのかという疑問は消し、よろめきながらゆっくりと野営地を目指し始めた。
「おい、お前。昨日はどこへいっていた」
野営地につくやいなやバルサックがカインにくってかかった。
胸ぐらを急に掴まれ、詰め寄られる。
「俺たちが倒した獲物はどこに持っていきやがった」
冷静さを欠いた少し苛立たしい声でカインを問い詰める。
半分睡眠状態だった頭もすぐに冴え渡り、リッツの姿を探す。
すると、奥の天幕のほうで手を振るリッツを見つけた。
「一体何の騒ぎだ」
バルサックの荒らげた声に主人のスネアが周りの野次馬達を押しのけて現れた。
それに気づくとすぐにカインを離し、何事もなかったかのように護衛達に出発の準備をするよう伝える。
バルサックはバツの悪そうな顔で踵を返すと、護衛達が固まって集まる場所へと去っていった。
少しシワになった服をカインは手で整えながら、スネアに挨拶をする。
「何があった、カイン」
心配そうな声で聞くが、なんでもないと応える。
周りの従業員達は一部始終を見ていたためか気持ち悪そうに笑みを浮かべ、リッツの元へと向かうカインを見る。
陰湿な雰囲気にスネアも感づき、手を叩いて作業に戻るよう伝えた。
「リッツさん」
「おう、災難だったな」
リッツは同情した声でカインの背中を叩いて勇気づける。
「昨日はすみませんでした。僕なんか寝ちゃったみたいで」
申し訳無さそうに言う。
獲物はどうしたんですか、と聞こうとするとリッツの後ろにいる一人の作業員が解体作業をしていたのが見えた。
大きな口のモンスターは今やそれぞれが独立した部位となって綺麗に分離され、一切の無駄なく丁寧に解体されている。
「うわぁ。すごい」
カインの感嘆の声に作業に当たる従業員が手をとめた。
少し照れくさそうに顔を背け、作業の続きをする。
「あんまりジロジロみるなよ。神経を使う仕事なんだから」
リッツが少しばか注意してやると、カインはそれ以上口にはしなかったが、視線をずっと解体士に向けたままにした。