6-18
「なぁ」
「はい」
「今日一日どうだった」
カインは聞かれ、黙り込んだ。
山と谷のような一日だったと思う。
スネアに良くしてもらい、バルサックに罵倒され。
しかしながら最後はリッツに少し良くしてもらう。
「大変でした」
総括する単純な言葉はそれであった。
深くは悩まず喜ばず、それなりの言葉でカインはリッツに伝えた。
「そうか。今日が初日だから、そんなもんだ。俺も一日目は良い事なんてなかった」
泳ぐ死骸を見つめながらリッツはいう。
「僕やっていけますかね?」
少し不安の混ざった声で尋ねる。
「うーん。お前ぐらいの歳でテティス商会に入ったやつなんざ聞いたことないしな。旦那さまも見込みがあって入れたんだと思うし、大丈夫だろ」
あまり本意に思ってない回答だったが今のカインには十分であった。
誰かに肯定してもらえる気持ちを久しぶりに味わい、カインはふと空腹も忘れて大きなあくびをした。
目をこすりうつらうつらとなりながら、今にも目を閉じそうになっている。
「おい、お前ここでねるなよ」
「……はい」
半分聞いていない声で返事をするも、ついに限界をむけたのか雑草の茂る箇所に横向きに倒れた。
ぼんやりとしたリッツの顔を見ながら、意識が飛びそうになる。
「おい、聞いてたか、おい」
カインは少しだけ、と力なく声をふりしぼるとそのまま静かに寝落ちしてしまった。
呆れたリッツだが、このままにしておけないと背に担ついで野営地まで連れて行こうとすると、人形が走ってきた。
「うわっ。あ、お前はこいつと一緒にいたやつか」
いつの間にか全身の砂は綺麗に落ちており、本来の木材質の肌が現われている。
人形は背負うとしたリッツを手で制止、代わりに自分がカインを背負うと野営地傍の林へと姿を消した。
一人残されたリッツはなんともいえない感じで川に浸かる獲物が流されないか再確認を行い、夜番の仕事に戻った。