6-16
バルサックとカイン以外の護衛は全て野営地への中へいた。
人形はどこへいったのか姿が見当たらないが、おそらくは自分の仕事を既に終えてどこかで休んでいるのだろう。
カインはバルサックと目があった。
吸い込まれるほど冷たい目をしており、その瞳には感情の有無を感じさせない。
遠ざけたくなるような眼にカインは怖気づく。
「お前の仕事は簡単だ。俺たちが殺したモンスターを運ぶ、ただそれだけだ」
怒りに満ちた声でも落胆した声でもない。通りすがりの赤の他人に向けるような声色で視線をカインから外すことはせず、見下すようにカインに向けて放たれた言葉であった。
「その程度もできないのか?」
バルサックの目が一際鋭さを増した。
カインは思わず視線を逸し、顔を俯かせた。
その程度。
彼ら護衛にしてみれば造作でもない事だが、カインにしてみれば難題である。
経験もそうだが、仕事とという観点から考えて明らかに必要な術を学んでいない。
致命的な差がカインとバルサックには存在し、克服しようにも時間をかけていくしかない。
何も言い返せない情けない小さな自分を客観的に突かれたような心の痛みが胸から体に広がる。
「それが終わるまでは野営地には入ってくるな」
それだけ言い残し、バルサックは彼を待つ護衛たちの元へとゆっくりと歩いていった。
涙を堪え、しばし無心になる時間を過ごした後にモンスターを再び引っ張り始める。
二回目となる薪の上を歯を食いしばりながら、それはバルサックの言葉に負けまいという気持ちの現われだったのかもしれないが、とにかくカインは与えられた最低限の事は成し遂げようと己に鞭打つ。
護衛と従業員の笑い声が聞こえてきた。
もう少しだと奮い立たせ、紐がくい込み続けて真っ赤になった掌など気にせず最後の力を振り絞った。
そうしてようやく辿り着く頃には食事も終わり、夜番に就く護衛4人だけが静かに残っていた。
カインの接近にいち早く気づくも相手が新入りだと分かると、舌打ちのような音をたてた。
「モンスターを運んで来ました」
カインの疲れ切った声に誰も耳を貸さない。
どうすればいいのかと辺りを伺っていると、耐えかねた一人の夜番が襟首を掴んできた。
「おい、ここにそんなもの置いてたら別のモンスターが来るだろうが」
「じゃ、じゃあどうすれば」
「そんなことも分からねぇのか。おい、そこのお前」
名指しされた護衛の一人が近づいてくる。
垢抜けしていないカインと年齢の近い青年の顔が篝火に照らされ映し出された。