6-11
「旦那さま。少々、手加減をしてくださらないと少年が混乱してしまいます」
召使いが御者の耳元で囁く声がカインのほうまで聞こえた。
「すまんすまん。ワシの悪い癖でな。では、一つずつ参ろうか。君はなぜここに?」
カインは話すべきか悩んだ。
決して人に語れる程、深い話ではない上に不幸話ぐらいしか持ち合わせはない。
話しても恥をかくだけで相手が期待するような物語ではない。
しかし――誰かに今の境遇を伝えるのは抱える心の問題を和らげる方法の一つではないだろうか。
牢屋で少女に語ったように、御者にも話しすことで何か自分でも気づけていない点を見つける手立てなのではないだろうか。
カインは深呼吸をして一瞬躊躇ったが、御者に経緯を話し始めた。
冒険者になりたくてルガという街にやって来たこと、少女と出会って森でゴブリンを倒せたこと。
夜になり、何者かに攫われ気づいたら地下にいたこと。
地下から抜け出し、小屋の下に広がる迷宮で人形と出会い、名も知らぬ村で捕まっていたこと。
そして村から逃げ出し、行く宛もなく街道を歩いていたところで御者と出会ったこと。
終始、御者は頷きながら視線をカインから決してはずさなかった。
同情に似た眼差しというのか、そういうつもりはないのだが、御者の心には何か訴えかけるものがあった様子で最後まで話すと、少し上を向いて涙を堪えるような仕草をした。
「なるほど、君は冒険者だったわけだ。しかし災難続きの末に今こうしてワシと話している。なかなか面白い冒険者人生を歩んでいるね」
面白いという言葉に違和感を覚える。
カイン自身はこの数奇な経験を面白いとは感じたことなど一度もない。
当たり障りのない言葉でいなされている、カインは胸のうちから少し怒りが湧いた。
「では、今度はワシの話をしてやろう」
御者は飲み干した紅茶を召使いに下げさせ、両手をテーブルにのせた。
したり顔となり、語り始めた。