6-10
「やめろ、バルサック」
御者が威厳ある声で制止したため、騎兵はすぐさま槍を再び背中に携えた。
槍の男は馬を少し下がり、顔を俯かせる。
「いきなりすまなかった」
御者台に座る男が降りてきて謝罪を申した。
カインも思わず頭を下げてしまう。
「許してやってくれ。あいつは仕事熱心なだけでな。悪いやつじゃないんだ」
「は、はい。こちらこそすみませんでした」
カインが再び頭を下げると御者は少し面白そうに笑ってみせた。
「その歳で謙虚な姿勢、珍しいな。ここで会ったのも何かの縁だ。少し食事でもしないか」
御者は機嫌よく言い、後ろの商隊に休むよう伝えると自身は馬車内に移動し、召使いだろうかあれこれ指示を出すと瞬く間に野外用のテーブルセットを組み立てさせた。
それを街道近くの平坦な場所に移動させ、準備が整うとカインを手招きした。
カインは戸惑いながらも、周りの大人達の視線に促されるように御者と対面で座った。
テーブルにはルガの街でも見なかった豪勢な料理が置かれ、カインの腹は素直に鳴った。
「ハハハ。そうかそうか、それはちょうどよかったな」
御者はカインの腹の音を愉快そうに笑い、召使いに指示してカインの皿を自身のものよりも多めに用意してやり、料理の大半をカインの皿に盛り合わせた。
魚や肉、野菜そして果物。これほど豪勢な食事はあとにも先にも今この瞬間だけでしか味わえないだろうが、矢継ぎ早に盛られる量の多さに気持ちで既に満腹になりそうであった。
「好きにな食べなさい。礼儀などここでは無用だ」
男はそういうと、自分は腕ぐらいある海老を折り曲げて殻を割り、丁寧に身を出して皿に添えられた白いソースにつけて大口をあげてかぶりついた。
海老の断面から香る潮と特有の匂いが躊躇っていたカインの手を動かし、肉にかじりつきそれから先は本能のままに飯を平らげた。
「さすが若いだけあってあれを全て食べるか。感心する」
御者は注がれるワインを揺らしながら全て平らげたカインの皿を肴に、一口つけたワインを口で味わいながら満悦した表情となった。
腹も満腹になりカインはしばし呆けていると、御者がテーブルを指でたたいた。
「君はどこからきたのかね?どうしてここにいる?そもそも何者だ?」
唐突な質問攻めに少したじろぐ。
決して悪い人ではないのだろうが、未だ知り合ってほんの数十分程度の仲だが御者は遠慮などせずにカインに詰め寄る。料理を振る舞ってもらった恩を感じてはいるが、順序というものがあるだろうとカインは胸の内で少し呆れてしまった。