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蝋燭台の火を消し、草陰へと捨てる。ここから先の灯りは家から漏れる光を頼りにすることになるだろう。
カインは砂の敷かれた村内に足を踏み入れる。
それと同時に最寄りの家から高笑いが聞こえ、そちらに顔を瞬時に向けて体を強張らせ立ち止まった。
目を見開き動悸が早くなるのを感じ、その場から動かずじまいでいると、人形が肩を叩いて緊張を解してくれた。
止めていた息で胸が苦しくなり、思いきり息を吸ってゆっくりと吐き出す。
砂音を立てまいとなるべく草が生えている場所を選ぶ。
それでも踏む際に音が出てしまうが、砂よりかは幾分かマシになるためカインは好んで進むと一つ小道を挟んで麦畑が見えた。
道幅が狭いためカインは飛び越える。
そうして身を屈めて畑の中へと入った。実った穂が顔中に当たるが堪えながら進む。
時折後ろを振り向いて人形が付いてこれているか確認するが、指示した通り、四肢動物のような姿勢で体が穂よりも高くならないよう進んでくれている。
しばらく進み続け、麦畑の終わりが見えだす頃には村の中心に近づいているのか家同士の間隔が短くなり、灯りも増え始めた。
おまけに雲が支配する夜空も合間から月が覗かせ始めたので、カイン達の姿も離れていても十分に視認出来るほどになってしまった。
家から伸び始める影を伝い、月の光に晒されないよう縫うように移動していく。
出口はまだか、カインは胸の内で舌打ちをしながら目印の丁字路へと少しずつだが着実に向かう。
その時であった。
今まさに通り過ぎようとした家の入り口があきはじめた。
カインは息を飲み込み、飛び込む形で短い路地へと入った。
「誰かいるの?」
カインを探す声が聞こえ、両手で口を塞ぐ。
足音はしないのでこちらへやってくる気配はないが、早くこの瞬間から解放されたい一心が募る。
鼻呼吸もなるべく音をださないように深呼吸の要領でゆったりめにするなかで、住民は諦めたのか再びドアが閉まる音が聞こえ、そこでカインは胸を撫で下ろせた。
路地から首をのぞかせ周囲を警戒する。
再び夜の静けさが戻り、数歩離れた場所に背を屈めたままの人形がいるだけで他には犬一匹も見当たらない。
再び移動を始め、丁字路に辿り着くと少し暗くなり始めて入ることに気づいた。
夜空を見上げると雲の量が増え始めているが、家の灯りも減ってきている。
灯りが減るのは少し気になるが、逆に自分が見つかる確率は下がる。
好都合だと考え、遠くでかすかに見えている村と繋がる街道を見つけ、少し足を軽くさせた。