6-4
翌日にも女性は訪れ、カイン達に食料を渡した。
1日三食と十分な量を与えられ、カインはむしろ健康的に過ごせていた。
そして二日目の夕食も無事頂き、あとは寝るだけとなった。
夜は静かでフクロウの鳴き声さえ聞こえない。
集落の離れにあるとはいえ、村人が騒ぐ声さえ聞こえないのは妙であった。
カインは満腹から半目の状態で眠り始めようとしていた。
頭をうつらうつらさせ、縛られたままだというのに緊張感なく柱を背にして楽な気持ちでそのまま寝てしまおうと考えていたが、人形がそれを阻止した。
突然、少し強めに小突かれ小さくうめき声を出した。
突かれた一点を目で意識しながら人形にくってかかろうとしたが、何か伝えたそうな面持ちでこちらを見つめる。初日から様子のおかしかったが、ここにきて迷宮で出会った頃のようにカインに何かを伝えようとしている。
カインと顔があい、人形は自身の太腿部分に面をむけた。
何かと思いそちらに視線を移動させると、本来の木の部分が顕となって、纏っていたはずの砂が剥がれ落ちている。
「なんでここだけ?」
外にいるかもしれない見張りに聞かれないよう息を潜めて問う。
人形はしばし考えたように顔を俯かせると、握りしめる手の甲に何かを砂で造り始めた。
カインの親指ぐらいしかないだろうかという小さな盛り上がった砂が徐々に姿形を変えていく。
長方形の平板が現れ、先の方から半月型へと伸び始める。
ある程度の長さになると止まり、そこから反り始めるとカインが何が出来上がっているのか分かった。
ナイフであった。
砂で作られたナイフは瞬時に誰でもわかるぐらい正確に作られており、形から想像してあの短刀を模造したのだとすぐにわかった。
ナイフは人形の砂がある場所ならどこへでも移動できるようで、手の甲にいたものは現在、背中の上あたりまで移動している。なんだか玩具のようだと可笑しくなってしまうが、次の瞬間、ナイフは人形が繋がれている縄を容易く切り裂いた。
「えっ!」
思いがけない大声に口を紡ぐ。
鼻息を荒くして驚きを表現するとともに、人形は自由の身となるとカインの縄を解いてくれた。
キツく縛られていたわけではないが、手首を軽く回して手のひらをじっとみる。
解放された喜びよりも人形の力に驚くばかりであった。