6-3
倉庫の外から近づく足音でカインは目をゆっくりとあけた。
随分と寝たかのように頭は冴えており、疲れは残っていない。
縛られた両手を器用に使い眠気まなこを擦り、瞬かせる。
欠伸も一つほど出てしまい、半分程背の低くなった蝋燭を見つめた。
外からドアを叩く音が聞こえ、来客が分かっていても体を強張らせた。
「入ります」
カインが返事をする前にドアが開いた。
朝日を背に浴びた一人の女性が立っている。
手には籠を持ち、中身を隠すように白い布が被せてあったが、瓶
女性と目が会い、カインは気まずそうな顔をした。
「食事を持ってきました」
そういうと、女性は汚い倉庫に怯むこと無く中へと遠慮なく入った。
そしてカインの前まで屈み、籠の上の布をとった。
慣れ親しんだ硬そうな黒いパンとガラス瓶に入った冷たいスープが入っており、水の入った瓶が入っていた。
カインは目を大きく見開くと同時に腹の音を鳴らした。
口の中で唾液が溢れる。
汚れた手などお構い無しにパンを掠めるように手にすると、断り一ついれずに口を大きくして齧りついた。
本来ならばそのままではなく、スープなどに浸してある程度柔らかくなったものを頂くのだが、今のカインにはそういった余裕などはなく、噛み切れまいが何度も咀嚼して顎を痛めようが関係のない話であった。
腹を満たすという行為、ただその一点に向き合い意識せずとも本能が取るべき行動を自然とさせる。
女性の口が動き、何かを話しているようだがカインにはその声すら聞こえないでいた。
スープが入った瓶は食器など使わずそのまま縁に口をつけて飲み、食道が空けば再びパンを入れ込む。
そうして数分満たないうちに籠の中身はなくなり、瓶の飲水を一気に飲み干したカインは恍惚な表情で天井を見上げた。
胃はもちろん、心も満たされこの上なく気持ちの良い時が流れる。
カインが悦に浸る中、人形は微動だにせずしかし顔だけは女性に向けている。
女性は砂で覆われた元木人形を不気味そうに見つめていた。
「随分と食べてなかったので助かりました。美味しかったです」
カインが女性に礼を述べると、顔を緩ませて笑った。
「また持ってきます」
そういうと、女性は立ち上がり倉庫を後にした。
カインは扉が閉まるその瞬間まで女性の背中を見つめていた。