0-6
もう少しだけ0章は続きます。
大通りの終わりが見えてきた。
周りの建物と比べて数倍大きく、横に広がりを見せた上で一つ一つに威厳のある雰囲気を出す建造物が一つ。
二つの前後左右を円塔を置き、塔同士の間には街の壁よりも分厚い壁ものが互いに繋がれている。
カインはそれが城であることがすぐにわかった。
大通りはつまり、城へ通ずる道だったのだ。
「城に行くつもりはないんだけどなあ」
カインはそう考え、偶然見つけた細い小路に入った。
日の当たらぬジメジメとした場所で地面には腐った生ゴミが散乱している。
蔓が家を正確に這うかのように、古びた樋が設置してあるのを見つけた。
雨でも降ったわけでもないが、排水口から粘度の高い液体がゆっくりと垂れていた。
色もなんだか赤く、妙に鉄臭い。
気味の悪さを感じながらもカインは無鉄砲に奥へと進んだ。
やがて円形の開けた場所にでた。
円形は四等分した形で道と繋がれており、その一つがカインがやって来た道である。
ここは屋根が邪魔しないせいか僅かながら空から中央に僅かな光が差し込んでいる。
カインは好奇心からそこへ立ってみると、唐突に横から凄い勢いで何かがぶつかってきた。
そのまま後ろの壁まで飛ばされ、背中を強打する。
痛む暇もなく何者かの手がカインの口を塞いだ。
「静かにしろ」
酒焼けした声であった。
背中から鼓動するような鋭い痛みに耐えつつ閉じていた目をあけると、ギョロっとした目がこちらを瞬きせずに見つめていた。
カインの心の奥底を覗き込むような瞳で斜視なのか左右共に明後日の方向を向き、けれども伝わる歪さに心が震える。
「金を出せ、わかるか?金だ」
「も、もっていない」
口を押さえられながらも僅かな隙間から言葉を発する。
村人からもらった大事な金を得たの知れない輩に渡すわけにはいかない。
カインの目には涙が溜まり始めていた。
「そうか。じゃあもう用はない」
男は右手をくたびれたズボンのポケットに入れると、何かを取り出した。
鈍く光る短刀であった。
刃渡り三十センチはあろうか。その得物を見せつけるようにしてカインの目の前に突き出した。
刃こぼれが激しく、ろくな代物ではないが、人を殺すには十分であろうか。
「もう一度聞く。金を出せ」
刃の峰でカインの顎下を数回叩いて催促をする。
ひんやりとした感触と金属の錆びた臭いが鼻腔を通る。
殺されるのも時間の問題だろうか。
「お前なんかにやるか」
精一杯の強がりで睨みつけた。
男もカインの決意を察し、諦めるかのように手を退けた。
しかし手に握られた得物はカインの横腹を狙い、鋭く襲いかかった。