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部屋を後にし、通路へと戻る。
相変わらずの曲がり角の多さに辟易してしまいそうになる。
暫く忘れている事ができた空腹も今しがた再発し、音を出して訴えるも所持品は古い短刀と数枚の銀貨だけである。森で見たあの集落に着いたらまずは食事をしよう、カインは胸の内で誓いを立てた。
迷宮の奥深さは単に言葉で表せる程、単純ではない。
旅商のおとぎ話にも登場したほど容易に踏破出来るわけでもない上、幸運の連鎖は起こるはずもない。
現実を知れば知る程、ここは最悪な場所なのだと心に刻む。
人形はそんなカインに不満一つ漏らさず共に進んでくれている。
ふと、あの少女のことを思い出した。漂う匂いからであった。
カインは走った。
曲がり角でモンスターがいようが罠の有無など飛ばし、走り続けた。
匂いが道標となって、進むべき道を示してくれている。
「出口だ」
長く複雑な迷路に光が一面に差し掛かる場所がみえてきた。
陽の暖かさを求めて足が軽くなるのを感じ、一心不乱となって突き進む。
強烈な光が出口でカインを出迎え、思わず腕で顔を防ぐ。
足元の映る自分の影をしっかりと確認をして薄目を徐々に開いた。
そして辺りを見渡す。
森の中であったが、周りに生える木々はみな針の木のように鋭くない。
落ちていた葉を一枚拾い上げ、空にかざす。
青々しい見慣れた楕円形の葉が風に煽られながら上下運動をし、カインの心は安らぎを得た。
見惚れるカインの横で人形がふいに肩をつついた。
振り向くと、人形の指差す遠く場所に家が立っていた。
それも一つや二つではなく、あちこちに点在しており、煙があがるものさえある。
家々の前では人の姿が見え、カインは目を大きくした。
「ついに集落にきたぞ!」
カインの喜びに満ちた声が森に響いた。