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声をかけて戻ろうと提案するも人形はその場から1ミリも動かず、砂で膨らんだ布袋を注視し続ける。
カインは渋々、人形の腕を掴むと移動させようと引っ張るが容易く振りほどかれてしまった。
木で出来た単なる人形の力に心の底で侮っていたカインは驚いた。
しかし――目には単なる砂にしか映らないそれにどんな意味があるのか。
今までの人形の行動を振り返れば今回も何かしらの意味があるのは確かだが、此度も検討はつかない。
「布袋が気になる?」
カインの問いに人形はゆっくりと頷いた。
本当は聞こえているのではないかと疑いたくなるような自然な頷き方をし、人形は指を改めて布袋を指さした。布袋の砂を再び手で掬い、人形の前に差し出した。
人形が砂を指で摘む。
するとどうだろうか、砂が幾重に分かれて伸びる蔓のような動きで人形の体を這い始めた。
砂は蛇のように巻き付く形で人形の一部となる。
頭部と手首に砂が居座り、心配したカイルが爪で削ろうとしても硬直しており、逆に爪の先が欠けた。
人形はもっとだ、とばかりに布袋を何度も指差す。
「そんなに欲しいなら自分で取ればいいんじゃない?」
カインの最もな疑問に人形は首を振った。
どうも自らとるのとでは違う様子でついにはカインの肩を掴んで催促を始める。
何がどうなっているのか理解が追いつかないまま、カインは布袋まで人形を呼び寄せると両手で掬い何度も人形に手渡す。
まるで磁石に吸い込まれる砂鉄のように砂達は人形の体中を巡り、布袋の底が見える頃には木目が見えない程までに覆われ尽くした。
カインが最後の砂を渡すと、袋の中で何かが倒れた音が小さく聞こえた。
空になった布袋を逆さまに振るってやると、両手ぐらいの別の小さな布袋が落ちてきた。
地面に落ちると共に金属が擦れる音がしたので少しばかり期待して開けると、中には銀貨が入っていた。
「何もないよりかは良いね」
持ち主はとうの昔にしまい込んだ事も忘れてしまっているだろうと、カインは有り難く頂くことにした。