5-8
水路の水で水浸しとなった階段を滑って転倒しないよう気をつけて降りる。
靴裏に水が染み込み嫌な感覚を覚えるも、鉄扉の前にすぐに辿りつき緊張で嫌悪感も消えた。
取手を握ろうにもカインはここまできて怖気づいてることを自覚した。
上手くいきすぎている事を考えれば次は必ず不運が襲う。
そうに決まっていると、不安が募る。
一向に扉を開こうとしないカインに人形がしびれを切らし、カインを押しのけると躊躇いなく取手を握りしめ、思いきりあけてしまった。
「あっちょっと!」
カインの制止する声も虚しく、扉は音を立てて簡単に開き、中からむせ返すような匂いが二人を襲った。
小屋に入った時と似たような匂いがカインの鼻腔を襲い、トラウマがフラッシュバックをする。
咄嗟に顔を背け、新鮮な空気が残る扉横へと退避すると顔の前で手のひらを仰いで匂いを逃した。
人形には嗅覚がないので関係ないとばかりにカインから松明を取ると、恐怖心をまるで感じない足取りで部屋の中へと入った。
カインも後に続こうとしたが未だ鼻腔に残る埃とカビとが合わさった匂いに目に涙を浮かべ、嗚咽混じりの咳をしながらもハンカチで口元を隠して部屋へと入った。
小さな部屋であった。
大人4人が辛うじて入れるような間取りで、壁と床ともに通路と同じく石で出来ている。
ただ、部屋の右上隅に布袋があり、何かを詰め込んでいるため壁によりかかるようにして垂直に置かれている。人形は部屋の中央に立ち、松明の灯りが均一に届くようにしてくれているので、部屋全体まで光が行き届き、見えづらい場所はまったくない。
カインは恐る恐る、布袋を手で握り、自分のほうへと引き寄せようとした。
しかし、中身は重量があるようで片手程度の力では微動だにせず両手を使う必要性がある。
ここにも何かしらの罠があるのではなかろうか。
これまでの経緯を振り返り、疑心を絶やさせない事を学んだカインは布袋の下の床を観察する。
重みで床の一部は沈んでいないか、床に預けた部分に窪みは生じていないか。
手でなぞりながら危険そうな場所は一つ一つ確認し、安全だと判断するとカインはじれったい気持ちで縛られた口紐をほどいて中身を覗いた。
単なる砂であった。
手のひらにのせ、指の腹で確認するもやはり砂に違いはなく肩を落として落胆する。
「お宝だとおもったんだけどなぁ……」
念のためにもう一つの布袋を確認するがこちらは最初から膨らんではおらず、横に倒れていたので予想した通り何も入っていなかった。
長居は無用ということでカインが部屋を出ようとした。
しかし、人形は違い一向に部屋から出ようとはせず、あの砂がつまった袋に顔を向けていた。
「はずれだよ。戻ろう」