5-7
あれから幾度となく足場の違和感を見つけては避ける事を続けていた。
水音の異常は徐々に大きくなり、人形にもその違和感は伝わったようで、どこか腑に落ちない様子でカインの後をついていたが今は横に並んで進んでいる。
それに加えて違和感は音だけではなかった。
水路に流れる水量も明らかに増水しており、なみなみと水路の幅一杯に溢れんばかりに勢いよく流れていく。
時折、溢れて通路を汚すのでカインは水路より離れ、壁のすぐ近くを歩くことにした。
手すり代わりに壁の窪みを指で掴み、進む中で罠は床だけではなかった。
いきなり手が壁の奥へと吸い込まれたかと思うと、そのまま壁が崩れて部屋の中へと体を横にしたまま倒れ込む。
人形が慌てて起きるのを手助けしてくれたが、あと数歩先に倒れていたら地面から竹のように生えた無数の槍の餌食になってしまっていただろう。鋭く磨かれた槍の先端に一部には布切れのようなものが引っかかり、衣服のような物が見えた。
かつてこの罠に引っかかった者がいることを想像すると冷や汗と共に嗚咽が漏れた。
喉元前にまで昇った酸っぱい味を飲み込み、人形に支えられながらカインは勢いの増す通路を急ぐ。
そうして念願の違和感の場所へとやってきたのは、呆気なくもあの針山の罠から数十歩先であった。
「ここで間違いない」
カインは足を止め、水路へ近づく。
変哲も無い水の流れにカインは片手を水の中へと入れ、違和感を確かめた。
水が僅かにだが底の方へと吸い込まれている気がする。
水中で手をぶらつかせると、自然と下へと降りていくのも偶然ではないだろう。
半信半疑で手の甲で吸い込みが最も激しい場所を叩く。
コツコツと音が聞こえ、隙間が生じたのだろうか気泡がいくつか昇った。
さらに激しく叩いてやる。
再び、気泡があがっただけかと思われた瞬間に底が崩れ始めた。
小さな水路の底だけならまだ良かった。
カイン達が歩いてきた場所、通路を含めた場所まで巻き込み足場が崩れていく。
一瞬の出来事に口をあけたまま呆然としてしまうも、さらに驚かせたのは崩れた場所に階段が現れた事であった。
通路の幅一杯に広がり、そこまで深くはなく松明で照らすと扉が見える。
小屋の入り口とよく似た鉄の扉がどっしりと構え、カインは生唾を飲み込んだ。
「入ってみよう」
カインの提案に人形も頷き、二人は階段を下り始めた。