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天井から染み出た一滴の水がカインの鼻頭に落ちた。
無意識に指でそれを拭い、進む中で狭まる通路を警戒しながら人形の先導の元、奥へと進む。
ここまでモンスターといったものと遭遇していない事が幸運である。
しかし良い事ばかりではない。
先程から感じている違和感を拭いきれないまま、カインはその正体を突き止めるため曲がり角に拾った小石で傷をつけていた。単なる気の所為ではないことを祈りながら、既視感のある曲がり角にさしあたり、人形を追い越し焦る気持を抑えつつも自身が付けたであろう箇所を目で探した。
そしてやはり見つけてしまった。
紛れもなくカインが傷を付けた跡があり、二斜線が短く描かれている。
つまりは今回で三回目、同じ場所を巡っているようだ。
「どうしよう」
カインの焦りは人形にも伝わったようでぎこちない動きながらも精一杯こちらに駆け寄り、木の面を覗かせた。慰めてくれているのだろうか背中を摩りながら落ち着かせようとしてくれている。
だが今のカインには大した意味はなく、ゆっくりと立ち上がり深くため息を吐いてしまった。
辺りを彷徨きながら空腹続きの思考でどうすべきか考えるも大した案は浮かんでこない。
引き返そうにも恐らくは戻ることはできないだろう。
さらに奥へと迷い込み完全に抜け出せなく、いづれは……。
カインの脳裏に死が過り、冷や汗が額より滲み出る。
いっその事、ここから動かずに誰かが通り過ぎるのを待つというのも手だろうと考えるも、進んできた道の脇に人がいた形跡が何もなかった事を思い出す。
救出される見込みはすぐに絶たれ次の手を考えようとする。
顎に手をあて何気なく水の音に耳をたてる。
そういえば最後に喉を潤してから時間がたつ。
飲んで大丈夫なのだろうかと、小さな水路に絶え間なく流れ続く水を手で救おうとした。
「何か変な感じ」
水が流れてくる方向を眺め、カインはその先に感じる異質を捉えた。