5-2
鉄扉の前にはローブの人物が立っていた。
頭から足元の靴まで全てを覆うように肌は一切見せず、それはまるであの少女のようであった。
カインは目を大きく見開いてその人物の肩を両手で掴み、大きく揺さぶる。
「どうして!」
自分でも驚くほどの第一声だった。
しかし相手は何も口にはせず、己の肩を掴むカインの手首を持つと容易く引き離す。
掴んだ手は血が通わぬような冷たいものでカインを驚かせ、肩から手が離れた後はカイン自身が腕を振り、払い退けた。
「君はだれ?」
少女ではない事は明白であった。そもそも人ではない可能性がある。
カインの問いにローブの人物は再び沈黙を通し、鉄扉の前に直立不動となって対峙する。
今のところ敵意は見られないものの、不気味な存在であることに違いはない。
正体を知りたいが迂闊に出れる場面ではない。
「僕はカイン。君は?」
胸の前に手を置き、自己紹介をしたあとにそのまま手をローブの者に向ける。
意味が通じるかわからぬ賭けであったが、ローブの者は自ら深く被るフードを脱いで顔をみせた。
「わっ!」
その表情を見たカインは驚きと少しの恐怖で声をあげた。
やはり人ではなく人の輪郭を真似て作られた木で出来た人形であった。
耳と鼻といったものはないが、目と口が申し訳ない程度に掘られており、形だけは人間に寄せてある。
当然、それらは動くことがないのでカインを一層に怖がらせるものの、敵対する意思はみせない。
そして首と胴体に境はなく一本の丸太から切り出し加工されたものであることがみてとれた。
カインも押し黙ってしまい、両者に時間だけが流れるも先に動いたのは人形であった。
踵を返すと、鉄扉を締めずに暗い小屋の中へと戻っていく。
カインが背を目で追うと、人形は一度こちらに顔だけ向けた。
何をするのかと固唾を飲むと、ぎこちない手の関節の動きで手招きをしてきた。
逃げるべきかと考えるもやはり好奇心には抗えず、カインは今しがた人形が曲がり角を曲がり、再び現れた際に持っていた松明の誘導の元、小屋の中へと踏み入れた。