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いつまでも続くと思われた雨は前触れもなく止み、雲を掻い潜った無数の陽光が姿を現す。
虹の気配を感じ、微睡んでいたカインは首が大きく落ちた所で慌てて目を覚ました。
陽光の一つが小さな洞窟を照らし、仄かな暖かさを感じる。
二度寝の兆候に激しく首を振りながら抗い、勢い良く立ち上がり大きく伸びをした。
そして干しておいた上着から雨染みが消えた事を確認し、手にとり何度か空中で払ってから着る。
「まだ不安だけど、行くか」
雨水を良く吸った泥濘ある地面を踏みしめ、旅を再開した。
土地柄なのか、地面は粘土質のものを思わせる程に合間合間に足裏を何度も掴まれる。
一度嵌ると両手で膝を持ち上げ、歯を食いしばる程の力を込めないと抜けない時があり、カインの体力を着実に奪いにきている。
急ぐ気持ちも伴えば増々、カインを疲れさせ空腹と体力の衰えとで歩き始めて一時間立たないうちに肩を上下させながら呼吸を荒くさせた。
昨日見つけた岩の窪地に溜まった水を飲んで以来、今日はまだ何も口に入っていないが、先程の雨のおかげで雨水が溜まっている場所は容易に見つける事ができる。
それは倒木した木の裂け目であったり、同じく剥き出しの岩の窪みがあり、それらの中でも群を抜いていたものをカインは見つけることができた。
連なりあいながら不格好に出来た岩壁の隙間、矮小な谷が出来た所に針のような樹の緑葉が積み重ねって一種のろ過器のようになっている。谷の底は年月を掛けて途方もない水が幾度となく流れ込み、造形美ある半月型のものとなっていた。
勾配あるその谷底には岩肌に付着した雨水が吸い込まれるように流れ落ち、それらが溜まりやがては谷底におちてろ過器の緑葉が水を濾し、最後には締めの悪い蛇口から漏れる具合にゆっくりと地面へと落ちていた。
カインはその滴る水に喉を鳴らし、おもむろに落ちる先を地面から己の口へとさしかえた。
量にして非常に微々たるもので喉を潤すには不十分であるものの、久方ぶりの水は体よりも心を喜ばせる。
もっと飲みたい、何か貯めておけるものはないかと探すと一つ、風景が様変わりする場所があった。
カインは探す足を止め、その視線の先には小さな小屋があった。