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カインの戦う意思を感じ取ったのか茂みのざわつきは急に大人しくなり、何事も無かったかのように他のものと同じく静まりかえった。
しかしカインは構えた拳を収める事はせず、気を抜くことなく暫く睨みをきかせていた。
今は一人であること、己の力を過信しないこと。
学んだ事を活かすべきだと自分に言い聞かせ集中力を維持する。
相手の素性が分からぬ故、警戒心を疎かにすることは危険を顧みない事と同意義だと頭に叩き込む。
「出てきていいよ」
睨みを一層させカインの若い声では少々足りないながらも威圧させるような声を出す。
陽があるうちに決着をつけたいが一向に姿を見せない相手にカインは歯がゆい気持ちでその時を待つ。
立ち上り、拳を握る。そんな単純なようで精神を使う姿勢に額にも汗が浮かびあがるも、決して拭う事などはせず目線を外さない。
「僕は逃げないよ」
三度の声にも反応はなく、カインは少し姿勢を緩めた。
抑えていた呼吸を解き、普段通りの呼吸に戻す。
どうも相手は去った後のようで、カインは茂みの横に回り裏側を覗いて何もいないことが分かると、深呼吸をして緊張を和らげた。
だが、たしかにあの時カインは空気が変わった事を自然と感じ取る事ができた。
まだ無自覚な己の小さな力に半信半疑のまま手の腹の皺を流れる汗を見つめるも、腹の音が鳴り響く。
「水はあったけど食べ物はなかったなあ」
途方に暮れつつ、稜線の向こうへと沈んだ太陽を見つめた。
夜空へと変わるグラデーションに感動しつつ、焚き火の前に腰を下ろし揺らめく火を見つめる。
明日には今日よりきっと良くなる。そして、必ず少女と再会を果たす。
カインは瞼の重さを感じ、少し眠るつもりで横になったが朝方までそれは続いた。