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ようやく水にありつけたのは日が沈み始めた頃であった。
偶然にも剥き出しとなった岩肌の窪みに水が溜まっており、カインは疑う暇なく両手で掬って喉を鳴らしながら飲んだ。陽に当たり続けた岩肌は水さえも巻き込んだせいで生暖かい水であったが、喉が潤った事で気に留めることはしなかった。
「もうちょっとで夜か」
カインはこの岩肌を背にして簡易的な寝床を作る事にした。
村にいた時の知識が役立つのはこれで数回目だ。
基本となる石材は周りに幾つか落ちており、木材のほうは朽ちたりして地面へ転がるものを使える。
まずは火を起こす事から始めこれは容易であった。
慣れた手付きで乾燥した木同士を激しく擦りつけることで、擦りつけられた点が熱くなるのは父親から教わった。その時の事はよく覚えているので記憶を鮮明にして同じ要領で――今回は針のような木だが、よく乾燥していたため一度も失敗なく火を起こすことができた。
不格好な石で作った囲いに種火を起き、体重をのせて折って作った薪モドキを焚べればあっという間に焚き火ができあがる。
洞窟をでて初めて腰を下ろしたカインは大きな欠伸をして火をみつめた。
だが、来訪者は諦めていなかった。
茂みより音をざわつかせ、カインはいつでも戦える態勢をとる。
得物は生憎失ってしまい、頼りに出来るのは少女のナイフ一つだ。
しかも刃こぼれも多く、実践向きではないが何も無いよりかはマシだと思える。
「そこにいるのは分かってる!」
カインは大声を出し、未だ見ぬ相手を凄むつもりで言った。
茂みはあいも変わらず動き、決して姿は見せようとはしないながらも、その音はカインを十分に怖がらせる。
恐怖から打ち勝つようにして拳を握り、殴る姿勢を取った。