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新章の始まりとなります。
カインの心は再び打ちのめされた。
仲間だと信じた相手が自分を残して一人だけ去っていった。
手助けしてくれるかと考えていたが、それは愚かであった。
一体彼女はどういうつもりで、そして過ぎ去る時に良心の痛みなかったのだろうか。
最早流せる涙も枯れ、憂鬱な気持ちで壁の一点を眺める。
「おい」
心の疲れからか幻聴まで聞こえ始めたのかとカインはその声を聞かなかったことにした。
耳を塞ぎたいが生憎、両手は縛られている。
「お前逃げないのか。今なら逃げれるぞ」
カインはその声が収まるまで一切聞こえる素振りを見せないようにした。
胸の内を無心にし、時折聞こえる松明の揺らめく音のみに耳を立てる。
「そこにナイフが落ちてるのに変わったやつだな。あとは斬ればいいだけだろ」
僅かな希望を餌にカインの心は動揺した。
「お前ナイフ使えないのか?」
「使えるよ」
ムキになって思わず反応してしまい、カインはしまったと心の中で後悔した。
しかしナイフという言葉に魅了されてしまい今更だと考えた上で丸めた背を解き、壁まで近づき体を預けて起き上がると、牢屋の出入り口を見ると、一人の女性が腰に手をあてカインを見下ろしていた。
「だ、だれ!」
足音は全く聞こえなかった。一体どこから入って来たのかさえ分からぬその存在にカインは驚きと恐怖でつい大声で叫んでしまった。
声が木霊し、地上へ向かって飛んでいく。
カインは目を見開き、霊でも見ているのではないかと脇下に冷や汗を大量にかきながら目の前の不可思議な存在から視線を外すことなく、注視した。
「あたし?あたしは単なる冒険者さ」
「ぼ、冒険者?」
身軽な格好をし、ハーネスのようなものを装着した女性は眩しくはにかんだ。
太腿には二本の短刀が二本、並ぶように鞘に収まりベルトで締められている。
「そう。それよりも、そこにナイフが落ちてるから、縄でもきったら?」
女性が顎で指示した先に先程まで落ちていなかったはずの玩具のような小さな短剣が鞘から抜かれた状態で転がっていた。刃はカインのものより酷く、殺しをするには一切向かないような状態であった。
「これって君の?」
「いんや、私が来る前に落ちてた」
女性の一言にカインは少女の事が思い浮かんだ。
言葉にしなくとも彼女はカインを見捨ててはいなかった。