2-7
二人は来た道を戻り始めた。
女の子に体を預けるなんて、と父が見たら怒鳴るだろうとカインは思った。
それに彼女は先程の戦いで再び火球を使ったのだ。
昼間のように魔力切れというやつを起こして、ふとした瞬間に倒れてしまうのではないか。
カインは少女の負担になるまいと憔悴した体を奮い立たせ、肩にまわしていた小さな腕を優しくはずした。
「遠慮なんていらないわよ」
「いや、だって、魔力が」
カインの言葉に少女は目を見開いたがすぐに鼻で笑った。
どういう意味かわからないが、今のところ、少女の体に目立った異変はない。
「あたしもそこは気になってたんだけど、なんだかあんまり疲れてないのよね」
「強がりだったら良くないよ」
カインが釘をさすような言い方をするが、当の本人は元気そのもの顔であった。
歩く中で分かったことだが、道の左右の茂みからはモンスターはこちらを覗くこむような形以上に姿を表そうとはしない。
二つの瞳を輝かせながらそこにいるのは分かっているものの、カイン達が視界からいなくなるまで待つようにしてその場から動くことさえしなかった。
「それより肩は平気?」
「う、うん。ちょっとズキズキするけど、巻いてくれてありがとう」
少女の巻いてくれた包帯は思いの外、上手に施術してあり血が滲んだ跡はあるものの、血が溢れ出すということはない。
応急処置としては完璧であるが、気にかけると痛みが表れる。
狼を倒せるとは全く思っていなかったし、この程度で済んだと喜ぶべきなのかもしれない。
やがて二人はあの分かれ道までもどってくることができた。
「このまま戻ろう」
決して反対の方へ冒険などはせず、森の入口に通ずるであろう一本道を進む。
荒廃した道も良くなりはじめ、足裏に感じる凹凸の少なさにどこか安心感が芽生える。
街の灯りはまだ見えずとも、着実に帰路を辿っていくることを予感させた。
「あ、あれ!」
「なに?」
少女が何か見つけたようで道から外れた場所に小さな灯りをみつけた。
揺らめきながら小さな光の粒が時折、爆ぜた音とともに出現したかとおもえばすぐに消えていく。
「焚き火……?」
カインは疑問を抱きつつも、目を凝らして正確に捉えようとする。
夜目には自信はないが、と思いつつも人の背らしきものが三つ見えた。
「人がいるみたいだ」