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2-5

次回、決着です

 一つ目の火球は狼の前足のスネ付近に当たり、泥が乾いたような毛色に火がついた。

 慌てふためいた様子で子犬のような甲高い鳴き声をあげながら、地面を叩きながら消火するもかえって火は勢いづき、燃える範囲を広げていく。

 視線はチリチリと音を立てて広がる火に釘付けとなり、少女の放った二発目には気づくわけもなく、今度は太い首にあたり、痛みでうずくまった。


「今よ!」

「うん!」


 少女が好機を伝えずともカインは伏せたまま動けずに震える狼の上首を狙い、得物を高くあげた。

 狙いを定め、重心をかけてできる限り真っすぐと振り下ろした。

 皮を裂き、肉の入り口付近で短刀が止まる。

 斬られた狼も今度は悲鳴に似た叫びをあげながらのたうち回る。

 後ろ足で空を何度も蹴りながら痛みを主張させ、激しく呼吸をしながら耐え凌ぎ、収まったかのようにゆっくりと起き上がった。

 しかし体を左右に揺らしながら動きは緩慢でこれ以上戦うのは無理なのではと思わせつつも、顔付きは殺意で満ち、口が裂けるのではないかというほど奥の牙まで見せつけるかのように低く唸りながらカイン達を直視する。


「だ、だめだ。強い」


 カインの弱音に少女が視線をきつくあてる。

 

「さっきまでの気持ちはどこにいったのよ。戦うんでしょ」

「だけど、あれで倒せないってなるともう無理だよ」


 全力をぶつけたはずが狼をかえって激昂させてしまい、状況は悪化してしまっている。

 ふらつきながらもカインを目指して歩みを止めない姿は自分もろとも道連れにするような覚悟を感じさせた。

 斬られた上首から血が静かに噴出し、少女の火球で焦げた部分を血で赤く上書きしていく。

 舌を出し、苦しそうに呼吸する手負いの狼の次の一手がどうでるか。

 威圧感だけでカインの足は後ろへと下がり始めたまま、ついには休んでいた木陰に踵があたった。

 狼はもう少女の事など眼中にはなく、己を斬ったカインのみに集中している。


「そのまま引き付けてて、あたしがもう一発ぐらい」

「やめて。無理しちゃだめだ」


 再び少女が倒れたらもうカインにはどうすることはできない。

 涼しいはずの夜の森だというのにカインは額から汗を流し続け、その時を待つことにした。

 死ぬのはどちらか、カインは覚悟を決め、どうせならばと先に動いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 手負いの獣ほど厄介な存在はいない(゜Д゜;)
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