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ゴブリンを倒して少し、ほんの少し強くなっている二人です
少女の恐怖はすぐさまカインに伝染した。
疲れがすぐに吹き飛び、慌てて立ち上がる。
少女の方が狼に近く、慌ててカインが前にでた。
「逃げてっていったでしょ!」
「でも、どこへ」
「それは……」
逃げる場所なんて見当もつかない。
森の中はさらに危険なモンスターがいるだろうし、自分一人で逃げるわけにはいかない。
灯りも無く、安全な道などわからない。
「僕は戦うよ。君はどう?」
カインは鞘から得物を抜き、構えた。
昼の時のゴブリンとの僅かな経験がいきているのか、剣を持つ際の体重の掛け方が自然と身についている。
斬る際は踏み込んで振り抜く。意識せずとも頭に考えがすぐに浮かび、どう動くべきかカインは数手先まで予測を打ち立てた。
「いいわよ。どうせここで倒さないと死んじゃうわ」
少女が詠唱をゆっくりと始めた。
別の魔法を唱え始めたので光球が消えてしまうのではないかと心配したが、未だ杖の上で浮遊しているのでその心配はなさそうである。
狼もやる気でジリジリとにじりよりながらカインへ近づいてくる。
両者警戒しつつ、どちらが先手をうつかの読みあいとなっている。
カインはカウンターを狙うつもりでいた。
先に動いたのは狼であった。
鋭い牙を剥き出し、そのまま丸飲みしてやろうかと口を大きくあけてみせ飛びかかる。
カインはそれを剣で受け止めた。
「くぅ!」
ゴブリンのときとは違い顎による強力な一撃は重く、姿勢は次第に地面に足をつくかのように低くなっていく。剣も震え、かみ砕かれるのではないかと思うほど、狼は強さは本物であった。
少女は依然として詠唱中だが、気のせいか僅かながら行動が早くなっているようにおもえる。
「いくわよっ!」
「っ!」
少女の準備完了の声にカインは右足で無防備な狼の横腹を蹴ると、怯んだ隙に横へと足をけってにげた。その瞬間ぎりぎりに少女のあの火球が二つ、鋭くとんでいく。
避けられない、直撃する。カインは火球が当たるそのギリギリの瞬間まで目を見張った。