2-1
カインは急な横揺れにあわてて目を覚ました。
慌てて立ち上り、寝ぼけ眼で周囲を警戒する。
得物を抜いたつもりであったが、柄は握っておらず腰に収まったままで慌てて鞘から抜いた。
「あんたってほんとだめね」
呆れた様子でカインを品定めするように少女が立っていた。
すっかりと元気な様子で顔は見えずとも口角をあげて慌てるカインを笑っていた。
カインは目を擦り、頭を徐々に起こしていく。
そして空が茜色に変わっていることに気づいた。
「あれもう夕方?」
「そうよ。随分と寝ちゃってたみたいね」
二人は森を抜け、再び平原で薬草集めをはじめた。
陽が傾ける中での作業だったので沈まぬうちに急ごうと集中した結果、依頼よりも四本多く取れた。
それらを袋へ入れ、来た道を戻り始める頃には山の稜線の向こうで夜がやってきていた。
「あんた灯りとかある?」
「ごめん。持ってないや」
「だと思ったわ」
カインは持ち物で何か代わりになりそうなものはないだろうか手探りで探すも、そのような類は見当たらず少女の顔を見た。
少女もそれは想定済みだったようで、ローブにしまい込む杖を取り出し、何かを呟いた。
小さな光の玉が少女の頭上からやや離れた場所に現れた。まるで蛍が数匹集まったかのように二人の僅かな周りを照らす。
カインは綺麗な光源に見惚れたが、再び魔力のことが頭を過り、心配そうに少女を見た。
「大丈夫よ。この程度の魔法なら全く問題ないわ」
「で、でも」
「あんたって心配性なのか天然なのかわからない所があるわね。でも本当に大丈夫」
夕方の時間は短く、遠くで準備していた夜はすぐにカインの真上にやってきた。
本格的な夜にはまだ時間があるが、道に迷う前に街に戻りたい。
「道、あってる?」
「わ、わかんないわよ。でも、ほらこれ見て」
少女が地面を照らした。
眼下に伸びる道に生えた雑草は他の場所と比べて背丈が非常に短く、比較的に平坦な道であった。
極めつけは靴だと思わしき人の足跡であった。
「こうなるんだったら地図でも買っておけばよかったわ……」
己の不甲斐なさに少女は少し頭を痛める仕草をした。