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冒険者だって人間ですもの、疲れたら眠たくなります。
「いい?魔法ってのはそう何度も使えるものじゃないのよ」
「そうなの?僕が聞いた話とは違うなあ」
カインは首を傾げて不思議そうに少女を見た。
「どこでそんな話を聞いたか知らないけど、そんな事ができるのは大天才ぐらいよ」
「えぇ!そうなの?ちなみに僕が小さい頃、村にやってきた旅の商人のお兄さんに聞いたよ」
カインは旅の商人にせがんで何度も聞いた勇者と魔法使いの話を少女に話した。
途中までは頷いて聞いていた少女も後半からは疑うような眼差しで頷くのをやめ、最後は黙ったまま聞き流すかのように怪訝そうにカインを見ていた。
「はぁ……。そりゃあ勇者様の仲間の魔法使いならそれぐらいできると思うわよ。でも、そんなのは数百年に一人ぐらいの人よ。普通はそんなの出来るわけがないわよ」
「そんなにすごい人だったのか……」
カインは少女から一般的な魔法使いがどの程度かを教えてもらい、少し夢から覚めた気持ちになった。
憧れの存在は非常に稀有な存在であり、凡人では決して届かない位置にいる。
だとすればなおさら憧れの勇者などは届かないどころか次元が違うのだろうか。
カインは深くため息を吐き、手足を投げ出して仰向けになった。
「なんだか僕、すごい勘違いしてたみたい」
「まあでも気持ちはわかるわよ。あたしも昔はそうだったもの」
「憧れを目指しても実際とは程遠い自分が嫌になっちゃうね」
カインは静かに呟いた。
「でもだからといって、夢は諦めるつもりはないわ。あたしはいつか魔導師になってみせるわ」
「魔導師?またよく分からない言葉だね」
カインは欠伸をしながら見知らぬ単語に夢見心地で聞いていた。
少女が話しだした時から既に眠気が襲いかかりはじめていたが、堪えながら聞いていたがどうも限界のようだ。
「ごめん、ちょっとねむたい」
瞼が半分さがった状態で少女に宣言するが、横の少女も気づけば黙り込んでいた。
背中が上下に動き、可愛い寝息をたてながら頭を垂れている。
そんな姿にカインはどこか安心し、自身も耐えていた睡魔に身を委ねるとすぐさま意識が途切れた。




