1-13
少女はどうしてしまったのでしょうか。
「あとどれぐらいかかりそう?」
「うるさいわね。集中できないじゃない」
手負いのゴブリンを前にカインは息切れを始めていた。
すぐにでも休みたい気持ちがあるが、相手は決して諦めようとはしてくれない様子で流れ続ける血を気に留めることなく闘志は失っていない。
斬られた方の手をぶらつかせ、木の棒を高く振り上げ、カインめがけて飛びかかる。
「ぐっ」
木の棒を刀身で受け止める。
折れてしまうのではないかという程の力にカインは呻き応じてみせた。
ゴブリンの菱形の瞳孔は濁り始めており、死へと半ば片足を入れている状態にみてとれた。
重くのしかかる一撃を振り払い、カインはその反動を使って膝の皿に一線いれた。
またしても浅く擦り傷程度だが身体的な痛み以上に精神的な苦痛が勝るような声をだした。
「離れて!」
待ちわびた少女の声にカインは邪魔にならぬよう右へと避けた。
対峙していたゴブリンも予想だにしない動きに、それまで前へとでていない少女の存在など当に忘れてしまっていた。近づく魔力の波動にゴブリンが気づくのは死の直前であった。
「あたって!」
少女が魔法に言葉をのせるかのように叫び、杖をゴブリンに向けた。
大人の拳大ぐらいの火の玉が二つ程、何もなかった空間から飛び出すと、ゴブリン目掛けて一直線で飛んでいく。
弓矢の速度と同等ぐらいで飛ぶ火の玉にゴブリンは反応できず、一つは腹部へと命中し、間髪入れずに顔面で受け止め後ろに倒れた。
そしてなかなか消えずに残る火を振り払おうと必死に地面を転がりながら動くも次第に緩慢となり、最後には仰向けで微動だにしなくなった。
「倒した……?」
終始みつめていたカインが上の空で呟く。
動かなくなったゴブリンに近づき、剣の先でつついてみせるが反応を一切みせない。
目は閉じたまま肺は上下させず、触ると冷たく硬直が始まっている。
「やったやった!倒した、倒したよ」
カインは嬉しさのあまりゴブリンの前で飛び跳ねた。
単独とはいかなかったが初の戦闘でモンスターを倒した喜びを体全体で表現した。
「ありがとう、君の――」
カインは言いかけた言葉を止めた。
共に戦ったはずの少女が地面に倒れ込んでいた。