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だいぶ追い込みました。
「魔法が使えたの?」
「え、ええ。そ、そうに決まってるから杖を出してるんでしょ」
少女は言葉に詰まりながらも杖を得意げに見せた。
魔法。カインはおなじみの旅商の話で聞かされた程度の話だが、非常に希有な存在だというのは知っていた。
水を出したり、風を起こしたり、何も無いところに火を付けたりと聞けばキリがない程に耳を疑う現象を起こしてみせる。
きっと彼女も何かしらを起こす事ができるのだろう。
カインは期待と羨望の目で少女を横目でみた。
「あんたは私の援護。いいわね」
「わかった」
魔法使いと肩を並べて戦える、まるで勇者じゃないか。
カインの恐れすくんでいた心は今は物語の登場人物かのように勇気に満ちていた。
握る得物もなんだか軽く感じ、手足の末端神経さえも思い通りのまま動かせそうであった。
「くるわよ」
少女が危険を予知してカインに伝える。
夢見心地に浮かれるのをやめ、剣を構えた。
二対一とはいえ、ゴブリンも引かずどこかしら矜持を持って相手と臨む選択をとる。
みすぼらしい木の棒だが、二人にとっては十分に驚異に感じてとれた。
「僕が盾になるから、魔法を頼む」
「言われなくてもそうするわよ」
カインは少女を信じ、盾になるべく一歩前へでた。
すぐ後ろで少女が聞き慣れない単語を口から静かに発し始めた。
少女を傷つけさせるわけにはいかない。
カインはゴブリンを睨みつけ、その時を待った。
最初に動いたのはカインであった。
「おおお!」
素人が剣を振るうように前に構えたものを単純に振り下ろす。
剣が落ちる速度はお世辞にも早くはなく避けらることが前提のようなものであったがゴブリンには十分であった。刃こぼれさえなければ一撃であったであろうカインの剣はゴブリンの左肩を捉えた。
深くささることはなく、斬り落とすには不十分すぎる一撃はしかしながら、ゴブリンを怯ませることはできた。
カインは次の一手を出すべく、得物を抜こうとしたが肉同士の圧力によって抜けずにいた。
柄を両手でもち、ぎこちなく上下にふりながら懸命に抜く。
それがかえってゴブリンを痛めつけることへ繋がり、傷口を押さえながらその場で倒れ込み悶え苦しむ。
我ながらえげつないことをしていると思うも、得物が抜けない以上は仕方がない。
「このっこのっ!」
声を出しながら動かすとようやく抜け落ちた。
刀身にべっとりと血が付き、腐った食料のにおいが鼻を刺激する。
拭いたい気持ちを残しつつ、カインは剣を前に構えた。