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二人でゴブリンを倒すことになりました。
少女に飛びかかるゴブリンにカインは反応できなかった。
危ない、と頭では分かっていてもいざその時が来た時には立つことはできていても、そこから足を動かすまでには至らない。
ゴブリンの影が少女の体を覆うその瞬間、少し足が前に出た気がしたが、得物を握る手は震え続けていた。
「こんのおっ!」
倒れかかったゴブリンを少女がもがきながら引き離そうとする。
体皮が硬いのか少女の握力では掴んでもすぐに手放してしまう。
「どきなさいよ、どきなさいってば」
拳を握りしめ肩を叩くも乾いた音しかならず、一つも傷を負わせていない。
ゴブリンもここまで弱いとは想定しておらず、暫く少女に殴られるままで呆然としていたが、それが冗談ではなく本気だとわかった時、汚らしい笑い声をあげた。
「あんた、突っ立ってないで早く助けなさいよ!」
「えっう、うん」
少女の罵声じみた催促に呆けていたカインも我に返り、ゴブリンの横腹を蹴ってみせた。
受けたゴブリンは虫にでも刺されたかというぐらいの痛みで逆にカインは硬いモンスターの皮膚につま先が悲鳴をあげた。
つま先を撫でながら堪えるカインに少女は怒りを通りこし、ローブの内側にしまい込んでいた杖を取り出した。
「こんの!」
両手で杖を持ち、杖の細くなった先端で突き刺すつもりでゴブリンの脇を突いた。
思わずゴブリンがよろけ、少女は無事抜け出した。
そして、カインは少女の横に立ち、二体一の態勢を作る。
「あんたほんと使えないわね」
少女の怒りの声にカインは何も言えず、目を下に投げた。
「こうなったらあたし一人でやるしかないみたいね」
カインの存在を無視し、杖を構えた。
魔法が使えるの?と言いそうになるも、目の前の敵に集中する。
ゴブリンも二人になったことで形勢不利と見たのか、顔がうってかわり焦りが見え始める。
周囲を伺いながら退路でも探しているのか、少しでも開けた場所があるとその先を見つめ、確認するような動きをみせた。
「あんた。もし悪いと思ってるなら今ここで挽回しなさいよ」
「わ、わかった!」
少女の叱咤にカインは勢い良く返事をし、戦う意思をみせた。