12-7
入る手前で壁から突き出た木の板に止まる梟と目があった。
思わず足が止まり、カインが注視しているとその場で羽ばたかせて威嚇とも見れる動きをする。
「ああ、ご心配なく。じゃれてるだけですから、襲ってきませんよ」
先に中へと入って客を待つ店員の気だるそうな声で我に返り、いざ中へと入った。
店内は狭く、売り場には出来る限り商品を置き、紐がついた商品はすべて天井からぶら下がった状態で販売されている。長物は手作りなのだろうか端材で作ったような木製の筒に突っ込まれており、値札は見当たらない。
「いらっしゃいませ。改めまして店主のハンネスです」
「店主……」
思わず口から出た言葉に気づき、口を押さえる。
ハンネスは乾いた笑いでカインを咎めることはしなかった。
「それで旅人さん、何をお求めですか?」
「えぇと、長旅を考えているので丈夫で長持ちするようなものを探してます」
「なるほど。予算はいかほどで?」
カインはためらう事なく狭いカウンターの上に小袋をひっくり返して中身を全てみせた。
それまで眠たそうにしていたハンネスも十数枚の銀貨と金貨に目の色をかえた。
「これだけあれば足りますか?」
「え、ええ。十分足りますね」
その言葉で一つの不安が消えた。
鍛冶屋での出来事でお金に対する不安が生まれていたが、あのナイフの値段が異常なだけだったようだ。
「ただ、うちは高級店ではないのでお客様がご希望されるような商品は無い可能性がありますよ」
「あ、いやいや別にそういうものじゃなくて、普通の人が使う……一般的に使うものであれば大丈夫です」
カインが慌てて首を振ると、ハンネスは少し考え店内を周り始めた。
そして一つ一つ気になったものを手にとり、小さな独り言を唱えている。
カインのことを考えてくれての事なのだろうが、それほど大掛かりな旅ではないのでかえって気を使ってしまったことを負い目に感じてしまう。
「あ、本当に普通の品で大丈夫ですので」
消えそうな声でお願いをしてみるも、ハンネスの耳には伝わらず依然として店内を回り続けながらも、幾つか商品を手に取る度に納得がいったものはカウンターに置いていってくれる。
ランタン、非常食、寝袋だろうそれと簡易的な調理道具。
品々はそれから数を増やしていき、肩に担いでいるサックの容量をとうに超えてしまう。
さすがに持てない量は買えない事を伝えると、大きめのサックを手渡してくれた。
カインの背の3分の2はあるであろうそれを誰が持つのかと考えたが、肩を指先でつつく人形が立候補してくれ、すぐに問題は解決できた。
そこでカインは気づいた。
一人分ではなく、人形もあわせて二人分を用意していくれているということに。




