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12-6

 思いの外、時間を使ってしまったようで陽も低くなり始めている。

 バイマールズでもう一拍するつもりはないので寄り道はもうやめ、道行く人に尋ねることにした。

 幸いにも分岐点には人間の客も多く、その中から買い物慣れしてそうな主婦の一人に道をたずねた。

 主婦は快く教えてくれ、意外にも食料品とばかり思っていた肉の絵が描かれた通りが正解であった。

 人形を引き連れ、言われた通り終わりの方まで歩いて行く。

 青果店やボドガで幾度と目にした海産物を乾物にした物まで一通りの食は揃えられている。

 通り全体を様々な匂いが支配しており、扱う店の前を通るだけで涎が思わずでてしまいそうになる。

 とりわけ、あまり馴染みのない甘みがカインの心を刺激した。

 生まれてこの方、甘い物を食べる習慣がなかったため、その甘美で優しい香りに足が自然と吸われていく。

 店舗型はもちろん、気軽にその場で食べれるよう馬車を改造して移動できるようにした店舗も存在しており、かえってその方が客足は多くみられる。

 目的をうっかり忘れてしまうほど誘惑の多い通りである。

 砂糖の香りが終われば次は肉肉しい脂がカインの鼻腔に入り込んでくる。

 この間まで随分と贅沢な生活をさせてもらった記憶が蘇る。

 しかし、今は何ももたない自分には過ぎたものだとふと考えれば、自然と我慢ができそうに感じる。

 目線はしっかりと肉料理の店をみつつ、カインは旅用品を探すことを念頭に置いたまま先を目指した。


 主婦の行った通り、通りから住宅街へと変わる境に旅用品を扱う店があった。

 それは2店舗存在しており、どちらも似たりよったりで大差ないようにみえる。

 まだ開店して間もない店とかたやガタがついた老舗。

 どちらで買うべきかと悩んでいると、店の前で掃き掃除をしていたメガネをかけた華奢な男性店員と目があった。軽い会釈をしてくれたが、カインのことを客とは思っていないのか、店に呼び込む事はせず店の前でちらばった葉や紙くずなどを履く事に集中している。

 老舗の方は明かりがついていないので今日は休みなのだろうか。

「あの」

 カインは男性に声をかけた。

「はい?」

「旅用品がここに売ってあるって教えてもらって来たんですが、今やってますか?」

「……ああ、お客さん。どうぞ」

 まるで自身が店員をしていることを忘れているような言い方にカインは不安を思いながら、案内された店の中へと入った。


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