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「私の祖父は鍛冶師だったんですけども、父は継ぐことはしませんでした。うちは数年前までは細々とやっていた店だったんですけども、祖父が打ったものを試しに売り始めた所、面白いに売れ始めちゃって……」
女性店員は語り始めた。
「それで父の目の色が一瞬で変わったことを悟りました。それから父は商売の事だけを考えるようになっちゃったんです。母はそんな父を見兼ねて家を出て行き、そのまま消息はわかりません」
「そんなことがあったんですね……」
カインは頷いて彼女の話に耳を傾ける。
「私が鍛冶を打つのは自分の意志でもあるのですが、それ以上に祖父への尊敬もあるんです。憧れに自分を重ねていつかあの人を超えたいという願いです」
彼女は胸の内に秘めていた想いをカインに吐露した。
誰にも言えず長い間、耐えていた苦しむを吐き出した彼女の表情はやや穏やかになったように思える。
カインは先程のナイフを見つめた。
今の言葉で綺麗に見えていただけのものも重厚さが加わったかのように目に映る。
これもなにかの縁なのかもしれない。それに確かにもう一本あればと考えていたところだ。
「銀貨3枚でしたよね、じゃあこれで」
「良いんですか?」
「旅は何かと入用なので1つ買っておいても損はないかなって」
小袋から手渡し、遠慮なくナイフを腰ベルトの空いた場所のに携えた。
「良い買い物ができて良かったです」
「すみません、何だか買わせてしまったみたいで」
「いえ、どっちにしても買うつもりはあったんです」
彼女の話があってもなくても、既にこのナイフに魅了されていたし、銀貨3枚とは思えない形様に儲けものだと心の中で喜んだ。
店を後にしようとすると、彼女はわざわざ店の前まで出て見送りのつもりで頭を下げてくれていた。
それが妙に恥ずかしく、通行人の視線も受け始めたのでカインは足早に去る。
通りの終わりが見える頃で結局、旅用品を扱う店は一つもなかった。
だが、このナイフとの巡り合せのためと考えれば悪くない気持ちで一杯となり、枝分かれする前のあの大きな場所まで戻ることにした。




