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「ちょいとお待ちを」
明らかに自分には無理だと判断した店主は店の入口を占領していた商品や備品を片付け、中へと上客を案内した。数分後、満足げな表情で蜥蜴族の男は出てきた。
「では二週間後に」
店主は深々と頭を下げ、闊歩しながら通りの終わりへと向かう一団を見送った。
随分と儲かったのだろう、先程までの店頭販売をやめて片付けを始めた。
小さな蜥蜴族たちがまだ物足りない様子でいそいそと動き回る店主に目線で訴えるも一度足りとも交わすことはない。
群衆も散り散りとなるなか、カインは店の中を覗こうとしたが人形に首根っこを掴まれた。
「ちょっと覗くだけだから」
カインの強引な反応に諦めた様子で手を離すと渋々と主人と共に中へと入った。
「いらっしゃいませ」
「こ、こんにちわ」
薄暗い店内に女性の従業員が一人、カウンターの内側から軽く会釈をしてくれた。
店内中央には鍵付きのショーケースに入った武器が数種類入っており、槍などの長い得物は壁側の縦ケースに入れられてある。
自分でも買えそうなものはないかと裸のままで置かれた商品を探すと、乱雑に投げ込まれたような大きなカゴの売り場を見つける。
船のチケット売り場で教わった文字と数字からそれらは、みな銀貨3枚で売られているものらしい。
「これぐらいならいいよね」
カゴの中を適当に漁りながら、気に入ったものを探し続ける。
どれも自分の身の丈に合わぬものばかりで、どう扱えばいいのかわからぬ物が多い。
挙句の果てにはガラクタの名にふさわしい壊れたパーツなども売られており、値札の真偽を疑う。
「あの……」
カインが夢中になっている横から声をかけられた。
「何かお探しですか?」
「え、えーと」
買う物を明確にしてなかったせいで答えに詰まってしまう。
何か適当な返事になるものを頭に急いで考え、蜥蜴族がみなもっているあの変わったナイフが浮かんだ。
「だったら……ナイフを探してます」
「だったら?」
「ああ、いえこちらのことです」
カインは乾いた笑い声で誤魔化した。
「ナイフですか」
店員は少し考え、カインがわかりやすいように分けていた中身を混ぜ始めた。
そして奥にあったものを上へと持っていくと、その手の中に一本のナイフが掴まれていた。
「こちら、当店のオススメですね」
手渡されたナイフを少し変わった鞘から抜くと綺麗な模様が描かれたものであった。
状態は新品といっても差し支えない程で刃先から柄まで目立った傷は見当たらない。
妙に馴染む柄を頼りに、斬ったり突いたりと動いて見るも違和感を抱くことはない。
「良いナイフですね」
再び鞘に戻し、従業員に渡すと口元が緩むのがみえた。
「ですけど、なんで銀貨3枚なんですか?もっと高いものに思えます」
値付けの経験が無いカインでも分かる。もっと価値のあるものであって然るべきだと。
「実はこれ……私の作品なんです」
「え?」
予想外の言葉にカインは唖然とした。
「そう思っちゃいますよね。女性が鍛冶なんて」
どう答えるべきかカインは言葉を詰まらせた。
彼女の言う通り最初に浮かんだ言葉はまさに彼女が言わんとしたものであった。




