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道の半ばまで行けば、想像していた通りに武具の類の店が軒並み現れる。
通行人のお目当ても最初からここなのだろう、行き交う客人達で盛況している。
何度か蜥蜴族にぶつそうな場面に出くわすも人形が上手いこと手を引いて避けてくれる。
これではまるで護衛されている気分に少しカインは嫌な気持ちになる。
自立する、と決めていたのに幸先はよろしくないなぁと、人形の好意を無碍にするのも憚れる。
カインは何か言いたげな顔で人形を見つめたが、すぐにそれをやめ、人集りができる店の前で足を止めた。
「何があるのかな?」
隙間を探して覗いて見ると、店の前で実演販売が行われていた。
店主らしき……人間であるが、手に持つナイフを藁で人に見立てたものに一突きしてみれば、針に糸を通すぐらい貫通してその威力を見せつけた。
「一昨日、仕上げたものだ。安くしとくぜ!」
大きな声がさらに客人達を呼び込む。
反対側にいた者も何の騒ぎかと買い物を中断し、店の中から出てくる者さえいた。
「蜥蜴族の皆様にはこちらがいいだろうか」
店主は腰元からあの特有の鉈を取り出した。
やはりへの字に中折れており、折れた先からは刃が現れる。
剣というよりかは大きなナイフと考えていいだろうその品物を胴体真ん中を貫かれた藁人形に右肩から左脇腹へと切り下ろした。
店主の力では途中で刃が留まる、カインはそう考えて一連の流れを見守ったが、予想に反して素直に最後まで振り切ってみせた。
切り後は少々まばらであるものの、その切れ味に客は興奮の声をあげた。
「す、すごい」
カインも思わず声をあげ、次は何を見せてくれるのだろうかと期待していると客の一部が気まずそうに離れ始めた。
それは周囲に伝わり、次々と離れていき、一筋の道が出来上がるまでとなった。
カインにはそれがどういう事なのか理解できないでいたが、一際大きい一人の蜥蜴族が現れた事で意味をそれとなく察した。
「店主、いくらだ」
低く唸るような声でその男は聞く。
「金貨40枚ってとこだ」
カインは耳を疑った。
確かに素晴らしい物であるには違いないが、たかだかナイフ1本に金貨、それも40枚となると破格である。
業物かなにか分からないが、足元を見られているようで少し気分を害すも問うた本人には些細な金額だったのだろう、言われるがままに立派な黒革の胸当てから小袋を出すとそれを店主の方へと投げた。
「おそらく金貨50枚は入ってるはずだ。数えてくれ」
店主は慣れているのだろう大事に両手で見事に受け取ると、紐を解いて中身を覗く。
カインの場所からでも中身が少し見え、それは間違いなく金貨であった。
店主は数枚ほど数えただけで店の奥から若いものを呼んで、それを手渡した。
「残り10枚はいかが致しましょう?」
先程までの口上はどこかへ飛んでいき、太客相手の商売人に様変わりした。
「だったらこいつを研いでくれ」
男はいつからいたのか、後ろに控えていた部下らしき蜥蜴族の男に背中に背負っていた得物を渡す。
「この店で買ったんだがもう刃こぼれしちまった」
受け取った得物はカインの背丈よりも高く幅も30cmはあるだろうか、立派な大剣で見るもの達を威圧させた。




