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12-1

 すぐに出発しようと考えていたカインだが、結局1日は泊まることにした。

 宿の世話までセルバスがしてくれ、その日の夜のうちに地図を持ってきてくれた。

 あとで知る話になるが、それは別に特別な物でもなくギルドへ行けば冒険者であれば銀貨1枚で買えるものだったらしい。

 翌日は遅めの朝を迎え、旅の道中で必要になるであろう旅用品を買い求め、バイマールズの市へと顔を出した。ここでは人間はむしろ少数派なようで、僅差で多数派になったのはバイマールズ近くに広がる巨大な湿原地帯の出身者である蜥蜴族の者たちであった。

 肌には鱗があり、概ね緑か紫、稀にだが赤いものもいる。

 一見では男女の見分けはつかず、声色を聞くことでようやく判別する。

 髪型も独特で男は決まってスキンヘッドまたは、モヒカンをして髪色と肌色は同じものとなっている。

 突き出た顔面とその先端の左右に小さく空いた鼻穴、確認できない耳。

 人混みで幾度なくすれ違い、その度に振り返って何度も観察してしまう。

 失礼な事だとは承知だが、カインにとって蜥蜴族は興味の対象となり得るものであった。

 ただ、人間とは違うのは誰しもが得物を用意していることにあった。

 兵士でなくとも一労働者と思われる者でさえ、何かしらの武器を見える形で携帯している。

 そしてその中でも特に人気なものはナタであった。

 ただし、薪割りの際に使用する物ではなく、刀身と半ばあたりで背が下へと緩やかに折れ下がっている形状をしており、刃の存在もそこから生じている。

 柄が隠して見ればそれは、への字のようにみえる。

 武器というより日常で使うものなのだろう。

 湿原の浅い水深と至るところに群生する雑草をそれで捌きながら進む彼らの姿をカインは想像した。

 興味の尽きない種族だが、人形に袖を引っ張られ本来の目的を思い出す。

 資金はたんまりとあるのだから粗悪品は避け、できれば良品を手に入れたい。

 人通りが少ない場所へと移動し、建物を背にする。

 依然よりも重みがました財布として機能している小袋を誰にも見られないよう、用心深く身を隠しながら中身を確認する。一際輝くように存在を示す金貨にしばし見とれつつ、主に使う銀貨を幾つかすぐに出せるようにとポケットに入れた。今のお金でどれだけの旅が出来るか分からない。

 振り返れば使う道中で金銭のやり取りをした記憶がほとんどない。

 意気込んで市へ来たがそもそも何を買えばいいのだろうか。

 寝袋と薪程度しかわからぬ、軽く考えていたカインには少しこの問題は難しいと感じてしまう。

 悩みながら再び通りの多い場所へと移動し、旅用品を扱う店を探すことにした。

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