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ルビアは荒い息をしながらも意識ははっきりとしていた。
幸いなことにベッドのシーツが包帯の役割をしてくれていたようで流血はそこまで派手にはならなかった。
医療の心得があるものは一人いてくれたおかげで、止血も行われ今は少し落ち着いて眠り始めたばかりであった。
船に衝撃が走ったのは無理もない。
一番無害そうだった小さな女の子が殺人犯だと誰が見抜けただろうか。
ミュルカの正体はこれ以上の混乱を起こさぬようカインとセルバスで伏せることにした。
今は船長室の方へ移送し、シーツだったものを鉄鎖に変え、頭には袋をかぶせ、カインの助言に沿って首にも鉄鎖を巻き付けている。
時折、足を激しくばたつかせ抵抗を見せるが、問題にはならない。
そしてミュルカの母親だが、どこにも姿が見えない。
複数の武装した船員でルビアの部屋へと入り、逃さぬよう部屋の入り口にも船員を配置したにも関わらず、部屋の四隅やベッドの下まで探しても見つからず終いであった。
船内全てを隈なく探索するも結局何も見つからず、船員たちは徒労に終わってしまった。
バイマールズの港に接岸した船を事情を知らぬ関係者が慣れた手つきでロープを使って係留作業に入る。
船に降下用の板切れがかけられると、セルバスが顔を覗かせた。
「ご苦労さま、船長。今回の航路も無事でなによりです」
「無事ではない。担架を持ってきてくれ、怪我人がいる。あと死体も一つあるぞ」
セルバスの言葉に関係者の顔が一気に青くなり、掴んだロープを投げ出し慌てて建物の中へと入ると、数人連れて帰ってきた。
担架を担いだもの達が板を渡って入ってきた。
「怪我人は?」
セルバスが船内で安静にしていたルビアのところまで案内し、眠ったまま苦しそうに呻くルビアを担架に乗せると今度は慎重に、担架を極力揺らさないように陸地へと運ぶ。
そしてそのままバイマールズの教会へと運ばれる姿が遠くからカインの目に入った。
「すまん。あと死体もある」
安置していた男の死体はルビアが泊まっていた部屋に布で包まれていた。
男たちは息を飲んだが、担架にのせると敬意を払いながら運ぶ。
セルバスは冒険者ギルドへ連絡するよう指示を出し、数分後に馬にのったギルド職員が駆けつけた。
ミュルカの事を話し、担架に乗せたままの死体を説明する。
「分かりました。では、証人として貴方がたもご同行願います」
呼ばれたのはカインとセルバスであった。
ミュルカの拘束が解かれぬよう腕利きのギルド職員が両脇で抑え込みながら連行していく。
カインはそこで船を降りることとなった。




