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11-18

 カインとセルバスは船内へのドアを足で蹴り開けた。

 低いうめき声のようなものが突き当たりの部屋から聞こえてくる。

 そこはルビアとミュルカとミュルカの母親の部屋であった。

「おい、今の声は誰のか分かるか?」

「わかりませんよ、そんなの」

 セルバスがドアの前までやってくると、腰につけていたキーホルダーを取り出す。

 無数の鍵がぶら下がり、その中から一番高価に見える鍵を差し込み回すと開く音が聞こえた。

 勢いよく二人で押すと蝋燭一本のみ部屋には天蓋付きのベッドが真ん中に置れてあった。

 大きさは大人二人が優に寝れるぐらいにはあり、右にはうつ伏せで体を小刻みに震わせる女性の姿があった。

 敷かれたシーツは赤く染まり、今にもベッドから落ちそうなその女性を助けるべくカインが近寄ろうとした。

 横から何かが迫ることに気づき咄嗟にしゃがんだ。

 髪の毛の中をそれは真っ直ぐと突き進み、止まったと思った時にはすでに引っ込まれていた。 

 カインは前足を蹴って再び部屋の外へとでた。

 頭を触りながら手の感触で髪を数本切られたことを知る。

「お、おいお前」

 驚きと心配の声でセルバスがカインを見るが、驚くほど冷静な表情で襲われた位置を見つめる。

 適当に狙ったわけではない。確実に、伸びた得物は振れることなく的確にカインの首元を刺すつもりであった。

 ミュルカと母親はどうなってしまったのだろう。

 カインは人形を呼ぼうとしたが、自ずと船内へとゆっくりと入ってきた。

 そして、何があったのか大体を把握する。

「強いよ。気をつけて」

 人形は頷き、両手をかまえる。

「なんなんだお前らは」

「冒険者です、一応」

 そう言い、先に飛び込んだのは人形であった。部屋に入るやいなや今度は反対方向から得物が襲いかかるも、人形の木質の体には吸い込まれずいなす形で得物が弾かれる。

 これには相手も驚いたのかすかさず足首を狙ってのを攻撃に切り替えたが、カインはそこを見逃さなかった。

 得物から伸びた腕が見えた瞬間、真っ直ぐと剣を振り下ろす。

 刀身の重さに落下速度を委ねつつも柄は握りしめ、力任せではなく使うべき所に力を寄せて切り降ろした。

 腕を斬った手応えを感じつつ、しかしながら最期まで振り抜くことはできない。

 斬ったはずの前腕は鉄を折ったかのようにくの字に曲がる。

 傷を負わされた相手を見つけようと手首がぐるりと折れ曲がり、カインを見つけると伸びて進む。

「くっ」

 肘と足首を使い、得物を上下で挟み込む。

 物凄い力で必死に抜き取ろうとするもカインは抵抗してみせた。

「今のうちっ」

 余裕のない声色で人形へ伝え、人形は両手を組むと頭の上まで持っていき大凡の相手の位置へと振り下ろした。

 鈍い音が聞こえ、暫くしてカインが抑えていた得物が力なく床へと落ちた。

 曲がった腕を廊下の方へと引きずると気をうしなったミュルカが姿をみせた。

「う、うそだろ。お嬢ちゃんが?」

 セルバスが震える。

 カインは油断しまいと倒れたミュルカの体を足で動かし仰向けにした。

 そこで目を疑う。

 ミュルカは人間ではなかった。

 みすぼらしい服だったものは単なる目隠しにすぎず、破れた一部から本来の姿があらわとなっている。

 お粗末な一本の背骨のようなもので首、手、足が繋がれており、心臓と思われる場所は四角い箱で守られている。

 力弱くゆっくりと点滅しながら、鼓動を表現しているのだろうか。

「こっちは大丈夫。ルビアさんをみて」

 カインはミュルカが暴れないよう、シーツの一部を破り即席の縄として解けぬように体に何重にも巻き付けた。さらに用心を重ねるため、首元にもシーツを巻き付け、目覚めた時に頭を動かされないようにする。

「お前、意外と容赦ないんだな」

 セルバスの言葉にカインは少し我を取り戻した。

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