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セルバスの言う事は最もであった。
乗客ないしは船員の身の安全は保障されなければならない。
しかし乗客たちはこれに反発した。
ミュルカが声をあげ、賛同する声があがり一段となって不服を申した。
「お前たちが幾ら文句を言っても目的地まではあと2日はかかる。それもあくまで順調に進めればの話だ」
最後の言葉に何かがひっかかる。
昨夜のあの願いの意味に関連しているのではと勘ぐってしまうも、根拠は無い。
「私、寒い所で寝たくないよ」
ミュルカの訴えに船員たちの中からも同情するような表情をするものが現れる。
自分の娘と重なってしまったのだろうか。
「諦めてくれよお嬢ちゃん。俺はこれ以上死人が出て欲しくねぇだけなんだ」
「でもぉ……」
納得のいく答えを貰えず、ミュルカは俯いて拳を握りしめた。
そんな姿の我が子を母親が抱き寄せて優しく頭を撫でる。
消えそうな声ですすり泣く声が嫌でも耳に入り、やるせない雰囲気が流れた。
「だったらそちらのお嬢さんは、私の部屋に来たらいいわ」
甲板に集まった乗客の中からの声ではなかった。
誰が発した声なのかとカインは辺りを探していると、船員が驚いた声で指差す先に声の主はいた。
船首の僅かな足元しかない場所から立つ一人の女性。
カインやたこ部屋の乗客たちとは明らかに違う服装である。
頭に大きな濃紫のとんがり帽子を斜めに被り、片目は帽子の鍔で敢えて隠れるようにしている。
細くすいた髪の一本一本が小波状になり、それは腰にまで達している。
身につける服も意匠をあしらったもので幾何学的模様が散りばめられたローブを着ている。
「むっ……お前さんどこかで見たことがあるぞ」
セルバスは一瞬顔を歪めて女性を凝視した。
しかし思い出せないのか顎に手を当てたままとなる。
「思い出せないってことはどうでも良いってことよ。それよりもお嬢さん?」
「ミュ、ミュルカって言います」
「あら自己紹介できて偉いわね。私はルビアよ」
その言葉にようやくセルバスが思い出す。
「あんた、魔女のルビアか」
カインが泊まるはずだった部屋の乗客たちがざわつきはじめた。
他の者は有名人なのかと隣同士で顔を合わせて何やら話しこむ。
「そう呼ばれてるみたいね。私はあまり好きじゃないわ。ただのルビアでいたいわ」
ルビアは艶めかしい歩き方でミュルカの前までやってきた。
そして手を差し出す。
「あなたさえ良ければだけどもね?」




