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セルバスのいう耐えれなくなるとは、どういう意味だったのだろうか。
カインが再びドアを開けた時、つま先が何かに引っかかり転びそうになりながらも踏ん張って耐える。
何に躓いたんだろうかとランプを取り外し、出入り口に近づけると男の身体が横たわっていた。
こんな所で寝なくてもと、人形に指示をして部屋の隅へと運ぼうと両手を握りしめた。
「え?」
妙に冷たいその両手に疑問を感じ、先に両足を持ち上げていた人形に降ろさせるよう伝えた。
そして、寝ているはずの男を仰向けにしてやり頬を触る。
「冷たい?」
反対の頬、腕、足首と露出している部分を触るも全てが冷たい。
人の体温とは思えない程の冷たさに嫌な予感がよぎり、失敬して上着を脱がせる。
そして、顕となった絡まった胸毛の上から耳を当てた。
医療の心得はないものの心臓と止まると死ぬことぐらいはカインには分かる。
それを確かめるべく耳を澄ませるも心臓の鼓動する音は聞こえてこない。
手のひらならば感じ取れるのでは、と考え手のひらを左胸におく。
しかし伝わってくるものは何もなく、男の心臓が止まっていることを把握した。
今の状況を周りの乗客に見られるのは非常に困る。
カインは男を介抱するつもりで、甲板に出る前にカイン達が座って眠っていた場所にゆっくりと運ぶと、顔を壁の方に向けて横にした。
まずは深呼吸と息を吸ってこの状況を冷静に考える。
しかし――死に慣れてしまっている自分が恐い。
旅を始めてから短期間のうちにモンスターや人の死を多く経験してしまったせいか、目の前の死体にあまり動揺が起こらない。命が失われる事に躊躇しなくなってしまった。
「セルバスに報告しないとね」
人形に残るよう伝え、カインはセルバスに状況を説明した。
朝が明け、乗客からざわめきが起こる。
船長のセルバスは船員を含め船に乗る全員を狭い甲板に集めた。
「俺の船の乗客が一人殺されたのはもう知っているだろう。見つけたのはカインだ」
カインは非難されることを覚悟で発見者は自分であることをみなに話すようセルバスに予め伝えておいた。全員が他人である以上、初めから小さな信用を築くことが後々の役に立つと考えた上であった。
案の定、数人の乗客から罵倒される。
カインは反論することなく目をつむってそれを受け止める。
そして、時折、手のひらに隠した小さなメモ書きにカインを揶揄する者たちの特徴をかいておく。
「それぐらいにしろ。俺は別にカインが犯人だとは思ってねぇ。むしろ良く報せてくれたとさえ思っている。死体なんて普通のやつが見たら怖くなってそのままにしちまう者ばっかだしな」
セルバスの言葉に乗客から声が消えた。
「ただ、今日からざこ寝部屋は使用禁止だ」
「じゃあ私たちはどこで寝るの?」
異を唱えた者はまさかのミュルカであった。
十にも満たない子供の訴えに誰しもが視線をおくる。
「私、外で寝るのは嫌。ちゃんとした部屋で寝たい」
ミュルカの言葉に同調する者が少しずつ声をあげる。
やがてざこ寝部屋の乗客全員が反対を示す声をあげ始めた。
「ダメだ。お前たちの中に犯罪者がいる以上、部屋で寝る事はゆるさねぇ。曲がりなりにも俺はこの船の責任者だ。勝手真似は許さん」




