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11-13

 カインの改まった態度にセルバスは再び酒瓶を口にした。

 酒もまわりはじめ、少々上機嫌となり口を開く。

「俺達はいうならば稼ぎの少ない雇われの船乗りだ。仕事は辛い上に薄給じゃ割に合わねぇ。そこで俺たちは勝手に船へ商品を積んで商売をさせてもらっている」

「転職すればいいじゃないですか?」

「野暮なことをいうな。俺たちにはこれしかないんだ。続けるぞ。今回手に入れた物がちょっとしたいわくつきのもので俺たちの手には負えねぇってことで、お前にお願いをしたいってことだ」

 セルバスは近くにいた船員の一人を呼びつけ、何かを持ってこさせた。

 それは小さな麻袋でカインの小銭入れとあまり変わらない大きさであった。

 船員がカインにそれを手渡し、中身を確かめるべく紐を解こうとした。

「おっと待て!おいそれと覗くもんじゃねえぞ」

 カインは動きを止め、怖くなって床においた。

「その中身を見るには覚悟が要る。ガキの小遣いとはわけちがうぞ」

「一体なにが入ってるんですか、教えてください」

 セルバスはしばし考え、なぜかパイプをズボンのポッケから取り出した。

 次にカインの置いた小袋をとると、中から乾燥した草をひとつまみ取り出す。

 太ももに乗せ、手のひらでパン生地でも伸ばすかのようにしたあとに一部をちぎって今度は丸める。

 それをパイプの火皿へと押し込むと、準備できたとばかりにパイプをカインに渡した。

「これが何か分かるか?」

 ルガの町でもボドガの町でも見かけた事のあるものだが、何をするものか分からない。

 記憶を頼りに思い出してみると、朧気だがみな口に咥えていた。

「吸うものですか?」

「ああ、だがその様子だと何を吸ってるか理解ってないみたいだな」

 セルバスはカインに渡したパイプを返させ、その辺に落ちていたロープの切れ端をランタンの火につけた。

 先端が優しく燃えるうちにパイプの火皿の草を直接ではなく、炙るようにして着火させる。

 草が仄かに赤く輝くと、パイプを咥えたまま息を吸い続ける。

 限界まで達したのか不意に口を離すと、口から小さな煙の球を吐き出し、その吐き出したものを遊んでいるかのように今度は鼻から吸う。

 すると、セルバスは何かを感じているのか途端に斜視のように眼球を泳がせ始める。

 肩をゆっくりと左右に揺らし、夜空を見上げて口をあけたままとなった。

 それが数秒続いた後、カインへと視線が戻ってきた。

「これで理解ったろ?こいつが何物でこれからするお願いの内容も」

 明確に言葉にせずとも察しろとばかりにセルバスはパイプをもう一度吸って恍惚な表情でそれを楽しむ。

「ちょっと考えさせてください」

 カインは船内へと向かう事を決めた。

「ああ。だが、お前のことだ。どっちみちあのタコ部屋なんぞ耐えれなくなって俺に手伝うよう頼みこむさ。それに鍵は俺が持ってるしな」

 後ろでセルバスの高笑いが静寂な海上を一番賑やかせたのが何よりも気に入れなかった。

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