11-12
「俺らも人のことを言えた立場じゃねえが、あんちゃんも随分と血の気があるな」
反論ができない人形をからかうように男が言う。
「まずは一杯だ。そこから始めようじゃねぇか」
男が船員を顎で使って新しい酒瓶を持ってこさせ、カインの前に注いでみせた。
酒など生まれてこの方飲んだこともない。
「いらないです。誂いたいだけなら部屋に戻りますよ」
カインが立ち上がろうとすると、男は胸の内側から何かを取り出した。
鍵であった。どこに使うものかすぐにわかる。
「お前さんが今一番欲しいのはこいつだろ」
「なんであなたが持ってるんですか」
カインの声に力がこもる。
「そりゃあ俺がここで一番偉いやつだからだ。それに俺にだって名前はある。セルバスだ」
「僕はちゃんとお金を払ってここに乗ってるんだ。それを渡してください」
カインが奪い取ろうとするも、寸前で躱されてしまう。
鍵は男の手から離れ、宙で何度も回転しながら最後は男の手のひらに戻った。
「取引だ。お前は俺の願いを聞く。そしたら俺はこの鍵をお前に渡す。分かりやすいだろ?」
自分の垢を刷り込ませるように手の中で鍵をもみほぐす仕草をして挑発をする。
否が応でも従わせようとする姿勢を崩す事はなく相手に要求をのませようと手段は選ばないセルバス。
「願いってなんですか」
相手にするのも疲れるので適当な声で一応をきくことにした。




