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男はカインを連れて船の後ろへと向かい始めた。
手にはランタンを持ち、右往左往と定まらぬ千鳥足で上甲板を進む。
巨大なメインマストを通り過ぎ、船尾楼へと続く小階段を昇り始めると操舵輪が見え始めた。
船員の一人が男の姿が見えると頭を下げ挨拶をする。
夜の海上は暗黒が支配し、四方に明かりは一切存在しない。
何を頼りに操舵しているのかカインには分からないが、この船の運命は彼に握られているのは確かであった。
期待などしていない気持ちで遠方の明かりを求めて水平線を見つめる。
「座れ」
男がカインの腕を無理やり引っ張り、半ば倒れる形で座らされた。
ランタンを対面する両者の真ん中に置き、自身は予め用意していたのか酒瓶や干し肉を少しずつ食べ始めた。
「お前の目的はなんだ?」
「えっ?」
酔っているのか元々なのか、男の座った眼が不気味に映る。
口を閉じずに咀嚼する汚らしい音と時折、思い出したかのように喉を鳴らしながら飲む酒が男の印象をさらに悪くさせる。
「お前の目的はなんだと聞いている」
同じ質問を繰り返し続け、汚らしいゲップを漏らした。
カイン方まで漂う汚臭に嗚咽しそうになる。
「目的は特にありません。バイマールズに行ってみようと考えているだけです」
カインは男から視線を逸らすことなく、濁った瞳に正直に話した。
言い終えた後、少し間があったが男は鼻で笑う。
「嘘ってわけじゃねぇみたいだな」
「嘘をつく理由がありませんよ」
「お前を呼びつけたのはちょっとしたお願いをするためさ」
男は怪しく笑う。
気づけば周囲に船員たちの顔がランタンに照らされ、男同様に厭らしく笑っている。
事態の悪さを感じ、カインは腰の剣に手を回した。
人形も並々ならぬ雰囲気を察し、カインと背中同士となった。
誰が最初に斬りかかるのか、カインは片時も目を離さずに敵対する相手を見定める。
「何か勘違いしてるんじゃねぇか?」
「どういう意味です?」
「敵を間違えてるって意味さ。俺たちは別にお前とやりあうつもりはねぇ」
今までの男の言動は怪しいものばかりで簡単に信用してはいけないと積み重ねた経験が警告をする。
しかし――誰一人として得物を持つ者はいない。
みな丸腰で拳を構えることはせず、ただ突っ立って笑うのみ。
レーベとの鍛錬の成果で得た場の空気を読み取ってみるも、乱れることはなく闘志は沸き立っていない。
カインはゆっくりと剣をしかし、警戒心は解かないまま男との距離を詰めた。
「あなたこそ僕に一体どんな目的があってよんだんですか?」
「穏やかじゃねえな。まずはそっちのあんちゃんを大人しくさせてくれ」
男が顎を向けた先、人形が既に二人の船員の首根っこを掴み持ち上げ、宙で足をばたつかせてもがき苦しむ姿にカインは慌てて降ろすよう手で指示をだした。




